黄金郷の夢

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
130 / 150

最後の一日 六

しおりを挟む
仲睦なかむつまじいことで羨ましい。私も今日だけはお手伝いしてあげたい」
 王のかいがいしい動作を真似て、アベルの先端に手を伸ばしてきたエゴイに向かって、アベルは懇願した。
「ああ、やめろ……、やめてくれ、エゴイ! た、たのむから、ここから出て行ってくれ!」
 エゴイは困ったように黒眉を寄せて笑った。
「許せ、アベル。おまえを見ていたい。見せてくれ、おまえの可愛い恰好を」
「い、いや! いやだ!」
「往生際が悪いぞ、アベル」
 まるで聞き分けのない幼児をなだめるように言い、エゴイが苦笑する。
 木馬には、真紅の天鵞絨ビロードの布がけられており、触れた肌を心地良く刺激し、アベルは背をこわばらせた。
「足は、ここじゃ。ここに、な」
「ああ……!」
 アベルは両目が涙でかすんでいくのを自覚した。
 自分は本当に、この場で、衆目のなかで、木馬に犯されるのだろうか。それを同国人のエゴイやアビラ子爵に見られて。
 アベルは両手首を吊りあげられたままの体勢で、切なげに肩をすくめ、悔しげに背をふるわせて啜り泣いた。
 そんなアベルの辛そうな様子が、また見る者には、いかにも悪漢にさらわれた薄幸はっこうの姫君のようで、征服欲を煽るものとなることにアベルはまったく気づいていない。
「おお、可愛い花嫁じゃ」
 王の手がアベルの背を、胸をまさぐる。
「はぁ……!」
 チュッ……という場違いなほど甘い音を聞いたかと思うと、アベルは胸に濡れたものを感じた。王の唇や舌が白い肌と紅い突起を吸い、舐め、ついばむ。
「ああ……、ずっと……、ずっと夢じゃった。あのときの美しく誇りたかい勇士を、いつかこうして思いのままにめちゃくちゃにしてやりたい……と。泣かせて……、喘がせて、悦ばせてやりたいと、どれだけ夢に見たことか。そのためなら、魔神に魂を売っても良いとすら思った。そなたを手に入れられなければ、余は生きている意味がない」
 王の熱をふくんだ言葉は、だが、愛撫の刺激に惑乱されているアベルの耳をかすっていくばかりだ。
「はぁ……。やめ、やめて……」
「よいか、足でしっかりあぶみを踏んでおれ。でないと、怪我をするやもしれぬからな。さ、公爵、そちら側を持ってくれ」
「は」
 アベルの意志をまったく無視して、男たちはアベルに受け入れる姿勢を取らせる。
「ああ、よせ、やめろ、やめろ! 待って、待って! 頼むからぁ」
 思わずアベルは女のように哀願してしまっていた。
「大丈夫じゃ」
「ああー!」

 ぐっ……――、と敏感な先端に固い物を感じて、アベルはのけぞった。
 刹那、アベルは頭のなかで、玻璃はりがくだけるような音を聞いた。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

おまけの兄さん自立を目指す 番外編集

BL / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:1,942

自ら魔力を枯渇させた深窓の令嬢は今度こそ幸せになる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:47

三年分の記憶を失ったけど、この子誰?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:8,563pt お気に入り:1,185

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:12,149pt お気に入り:7,532

溺愛ゆえの調教─快楽責めの日常─

BL / 連載中 24h.ポイント:333pt お気に入り:1,519

聖女の取り巻きな婚約者を放置していたら結婚後に溺愛されました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,378pt お気に入り:458

【R18】メイドのリリーは愛される

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,057pt お気に入り:1,048

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21,201pt お気に入り:589

処理中です...