黄金郷の夢

文月 沙織

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最後の一日 四

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「本当にしょうのないじゃじゃ馬じゃ。だが、それぐらいきが良くなければ、楽しめぬ。さ、おいたの罰じゃ。木馬に乗せてやるぞ」
「だ、誰が!」 
 涸れた声で叫び、なお抗おうとしたアベルの動きは、一瞬止まってしまった。
(え……? な、なんだ)
 身体の中心で、どくん、と何かがはじけるような、波打つような聞こえない音が聞こえた気がした。
(こ、これは……?)
 頭から足のつま先まで、体内で熱風が吹き荒れている錯覚がする。頬が熱くなり、うっすらと新たな汗が全身に弾ける。まるで強烈な酒を一気に飲んだような心持ちで、アベルは内心あわてた。
 なによりアベルを困惑させたのは、下肢の変化だ。
「そ、そんな……!」
 アベルのまだ初々しい若茎は、追い詰められたこの状況で萌えはじめていた。
「おやおや」
 王は目を細めた。観客たちにもアベルの変化は一目瞭然となり、嘲笑のさざ波が立つ。
「早く乗りたくてうずうずしておるのじゃな。悪い子じゃ」
「ち、ちがう!」
 半泣きの声で必死に否定しながら、羞渋しゅうじゅうするアベルがおずおずと腰をひねって人目を避けようとする様子は、たまらなく官能的だ。壮絶な色気と無垢な純潔をかねそなえた異形の花嫁の艶姿あですがたに客たちは魂をうばわれたように夢中になった。
「ほれ、来るが良い。期待通り乗せてやろうに」
「あっ、嫌だ、はなせ!」
「我がまま言うでない。客たちが皆待ちかねておるのだぞ。公爵、この恥ずかしがり屋をどうにかしてくれ」
「は」
 かつての友は敵の命に忠実だ。
「いやだ!」
 エゴイは身体半分を抑えている王に加勢して、アベルの左肩と腰をつかむ。
「い、いやだ、はなせ! 手をはなせ!」
 どうあがいたところで、かなうわけもなく、アベルは不様にも木馬の前に引きずられていく。足首や足にかろうじてからまっていた白布が床にながれる。
「はぁ!」
 二人がかりで、とうとう木馬の鞍の上まで抱きかかえあげらえたアベルは失神寸前だ。両脚はむごくも左右の男たちの手によって大きく割られる。
「あっ、ああっ、ああっ!」
 自分がされていることが信じられない。
 目を閉じてまた開けたときには、故国の自分のやしきにいるのではないか、寝慣れた寝台にいるのではないか、とアベルは絶望のどんぞこではかない期待をした。

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