黄金郷の夢

文月 沙織

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最後の一日 一

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「アルベニス伯爵……、いや、アベル、そなたはもう帝国には決して帰さぬ。よいか、終生、余の妻として余のそばにだけおれ」
「ううううう……。 あっ!」
 聞き分けない子どものように返事をしないアベルに、王は荒療治とばかり、褥上に立ちあがると、アベルを引きずるようにして同じように立たせる。
「はぅ!」
 いったんは離れてくれた熱を、ふたたび背後に押しつけられてアベルは抗ったが、すぐに抑えこまれ、王の意のままだ。
「ああっ! や、やめろ、やめてくれ……、いやだ、もう、やめて、やめて!」
 立ったままの交情はさらに苦痛だった。
 客たちのまえにいっそう恥辱の姿を晒し、無理やりあたえられる快楽になびくおのれの浅ましさを隠すところなく見られてしまう悔しさにアベルは歯噛みした。
 しかも、自分はこれだけ生き恥をかかされているというのに、王は衣をまとったままで、ほとんど乱れていないのがまた悔しかった。
「はぁ……! あああっ!」
「くくく。淫らな花嫁じゃ」
 恥辱と屈辱、羞恥、絶望、それらに頭も心も破壊されつくされたあと、アベルのなかで、なにかが壊れる音がした。

 後になって思い出すと、アベル自身、なぜそんなことをしてしまったか解らないが、気づいたとき、アベルはみずから身体をひねると、ディオ王の唇におのれの口を寄せていた。
「……?」
 王がちいさく息を飲むのが知れる。
 だが、かまわずアベルが身体を動かしたので、二人の唇がかさなる。
「伯爵……?」
「……アベルと呼んで」

 自分の発した声が別人のもののように聞こえる。近くにいたエゴイの息を飲む音も聞こえる。
「アベル」
 王はたしかにそう呼んだ。
 そして、次の瞬間、衣擦れの音が響き、ディオ王のまとっていた白い豪華な衣が落とされた。王もまた上半身裸になると、褥の上にアベルを組みしいた。
初心うぶだった花嫁がやっとその気になってくれたようじゃ」
 これは、復讐だ。アベルは抱かれながら、ぎりぎり正気を保っている頭のどこかでそう考えていた。
(私だけでは墜ちない……)
 目のまえのこの男も、また道連れにしてやる。そんな復仇の想いが胸に燃える。
 それは、とことんしいたげられ、墜とされた者がなしうることのできる、唯一の復讐だったのかもしれない。
 ディオ王に力強く抱きしめられながら、アベルは象牙の耳飾りにどうにか手を伸ばした。震える片手でなんとか栓を開けると、口に含んだ。
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