黄金郷の夢

文月 沙織

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初夜散華 一

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「ああ、駄目、駄目だ! エゴイ、もう許してくれ!」
 切願するアベルにエゴイは嘲弄ちょうろうをふくんだ言葉を返す。
「馬鹿なことを言うな。ほら、感じろ。もっと素直になれ。そうだ、可愛いぞ」
 そんなアベルの哀れな様子は、客たちを陶然とうぜんとさせる。
 給仕の侍女や宦官たちも興味津々で、異国の麗人の落花無残のすがたを鑑賞している。男も女も宦官も、アビラ子爵や他の大使たち、その場に居合わせたすべての人々の目は、道具をくわえ込んで泣くアベルに釘付けになっている。誰も目を逸らすことも出ていくこともできず、広間はねっとりとした熱い空気に満たされ、異様な雰囲気にあふれていた。
 そして――、
「はぁっ! ああっ! ああああっ!」
 アベルは壮絶な敗北感の果てに、一瞬、おのれの魂を手放した。
 その様子を、ディオ王は冷たい目で眺めていた。

「もう充分だ。介添えは下がるがよい」
 冷気をふくんだような声で常夏とこなつの宮殿の温度を一瞬下げたが、すぐに王は表情を戻した。
 エゴイは名残惜しそうに寝台から下がったが、下がるまえに、褥につっぷして半ば意識を朦朧とさせているアベルの右手を取り、接吻した。まだ、淫夢の余韻をまといつかせ、臀部には道具を嵌めたままのアベルに対し、騎士が高貴な姫君に敬意をあらわすようにうやうやしく。
 そんな様子を、やはり冷めた黒目で身ながら、ディオ王は、アベルを覚醒させるためか罰を与えるためにか、突き上げたままの臀部を平手打ちした。
「あ……」
 痛みに意識を取り戻したアベルは、おのれの状態を知って、うろたえた。
「じっとしておれ」
 やや乱暴な仕草で、王は象牙の柄をつかみ、〝妻〟の腰からそれを引き抜く。
「はぁ!」
 不快さにふるえながらも、異物が取り出されたことでアベルはほんのわずか安堵の息を吐いた。
「まったく、なんという淫乱じゃ。他の男の手で、あそこまで悶えるとは」
 自分でそうさせておいて、後からそんなことを言うディオ王を、アベルは心底恨めしく思ったが、言葉に出す余裕はなかった。
「最初からこれでは先が思いやられるな。そうじゃ、今後は、そなたに貞操帯を嵌めさせておくとするか」
 王は悪意をかくすこともせず、楽しげに眉をゆがめた。
 貞操帯――。
 聞いたことはあるが、見たことはない。それがどんなものなのか、想像するとアベルの手足の先は冷えていく。
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