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公開初夜 三
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「バルトラ公爵様、花嫁であるアルベニス伯爵の介添え人になっていただけませんか?」
「……何をすればいいのかな?」
宦官である少年を珍しげに見下ろしながら、エゴイは訊ねた。彼もまたアベルの方を見ようとはしない。
「これで、伯爵が陛下と仲睦まじくなれるよう、お手伝いをお願いします」
そう言ってカイがエゴイに差し出したものを見て、アベルは驚愕した。
それは、象牙の張り型だった。
卑猥な形の責め具にアベルの震えは激しくなる。
それは今までに使われたものよりかは大きく、アベルを戦慄させるに充分なものだった。
(やめてくれ! エゴイ、断れ! 断って、ここから出て行ってくれ!)
アベルは目で必死に訴えたが、エゴイはアベルを見ることなく、手渡された象牙の張り型を凝視している。
「……これは……、新妻にはきついのでは?」
カイは笑って首を振った。
「大丈夫ですよ。今までのと比べれば少し大きめですが、ちゃんと毎日慣らしてきたんですから」
「毎日、慣らしていたのか?」
エゴイの目に複雑なものが混じったように見えた。
「ええ。花嫁は、あなたが思っているよりずっと……なんというのか、勤勉で、花嫁修業に一所懸命に励んでくれました。今日のこの日のために、連珠や、張り型、卵でがんばってくれたのですよ」
聞いているアベルは悲鳴をあげそうになった。
(ああ、言うな……!)
ここしばらく受けた屈辱的な行為をエゴイに知られた恐怖と恥辱に、頬が熱くなり、ヴェールのしたの額や頬に汗を感じる。
「卵でも……?」
エゴイが信じられない、とうふうに黒い目を見張っているのが、いたたまれない。
エゴイの黒い瞳は、王の漆黒の瞳にくらべれば、夜の闇に山羊の乳をひとしずく混ぜたような色だ。その分、気性も、ディオ王の統治者らしく曲がることなき苛烈さに比べれば、柔軟性をそなえた、折れることのできる巧妙さをふくんだものだった。
今も、状況を把握した彼は、鋭い頭のなかでどう出るべきか計算しているのだろう。
「ふうむ……」
ここで抗ったり、異教徒たちを糾弾しても、勝てるわけがないと踏んだようだ。エゴイの唇の端がやや吊り上がり、笑みの形に変わるのをアベルは見逃さなかった。
彼は大貴族であって騎士であると同時に、外交官であり政治家でもあるのだ。要領の良さと、あらゆる状況において臨機応変できる賢さを持ち合わせている。それはアベルには持ちえなかったものだった。
「……何をすればいいのかな?」
宦官である少年を珍しげに見下ろしながら、エゴイは訊ねた。彼もまたアベルの方を見ようとはしない。
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そう言ってカイがエゴイに差し出したものを見て、アベルは驚愕した。
それは、象牙の張り型だった。
卑猥な形の責め具にアベルの震えは激しくなる。
それは今までに使われたものよりかは大きく、アベルを戦慄させるに充分なものだった。
(やめてくれ! エゴイ、断れ! 断って、ここから出て行ってくれ!)
アベルは目で必死に訴えたが、エゴイはアベルを見ることなく、手渡された象牙の張り型を凝視している。
「……これは……、新妻にはきついのでは?」
カイは笑って首を振った。
「大丈夫ですよ。今までのと比べれば少し大きめですが、ちゃんと毎日慣らしてきたんですから」
「毎日、慣らしていたのか?」
エゴイの目に複雑なものが混じったように見えた。
「ええ。花嫁は、あなたが思っているよりずっと……なんというのか、勤勉で、花嫁修業に一所懸命に励んでくれました。今日のこの日のために、連珠や、張り型、卵でがんばってくれたのですよ」
聞いているアベルは悲鳴をあげそうになった。
(ああ、言うな……!)
ここしばらく受けた屈辱的な行為をエゴイに知られた恐怖と恥辱に、頬が熱くなり、ヴェールのしたの額や頬に汗を感じる。
「卵でも……?」
エゴイが信じられない、とうふうに黒い目を見張っているのが、いたたまれない。
エゴイの黒い瞳は、王の漆黒の瞳にくらべれば、夜の闇に山羊の乳をひとしずく混ぜたような色だ。その分、気性も、ディオ王の統治者らしく曲がることなき苛烈さに比べれば、柔軟性をそなえた、折れることのできる巧妙さをふくんだものだった。
今も、状況を把握した彼は、鋭い頭のなかでどう出るべきか計算しているのだろう。
「ふうむ……」
ここで抗ったり、異教徒たちを糾弾しても、勝てるわけがないと踏んだようだ。エゴイの唇の端がやや吊り上がり、笑みの形に変わるのをアベルは見逃さなかった。
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