黄金郷の夢

文月 沙織

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公開初夜 二

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 運命、偶然、という言葉だけではくくれない何か強烈なものを感じて、アベルは背が寒くなってきた。
 だが、やがて、困惑に体内の異物の存在もわすれていたアベルの耳に、聞き慣れぬ音楽が忍び込んできて、アベルは思い出したようにふたたび熱に襲われた。
 広間の隅に控えていた楽士たちがそれぞれ笛や太鼓の楽器を使って、不思議な音律を奏でだしたのだ。なかでも取り分け耳を打つのは平鼓タンバリンの音色だ。
 聞く者の耳に妙に心地良く、聞いていると、誰しもが普段は内に忘れていた熱いものを引きずり出される気分にさせられる。その熱は、野生というものかもしれない。
「さ、前置きはもうよい。客たちも待ちくたびれておるぞ」
「あっ、ま、待て!」
 寝台上にアベルは押し倒され、裾を割られる。
 観客たちの押し殺した声も、あまりに数が多いため、広間に妖しいうねりとなって淫靡な風をつくる。
「駄目じゃ。もう待たぬ。余は充分過ぎるほど待ったのじゃからな。五年、いや、六年近く待ったのじゃ」
 その言葉に、自分が思っていた以上に深い王の執着と欲望を感じてアベルは寒くなる。
「あっ……!」
 太腿に風を感じてアベルはあわてた。
「お待ちを、陛下」
 宦官長ハルムの声が割りこんできて、事を急いでいた王は苛立ちに眉をひそめた。
「なんじゃ、このうえ、まだ余を焦らす気か?」
「陛下、花嫁には介添かいぞえが必要でございます」
「お、そうか。忘れておった。では、そなたがするか?」
「いえ、この場合は、やはり同国人の方にしてもらった方が花嫁も安心するのでは」
「陛下、帝国の御使者の方にお願いしてみては?」
 カイの提案にアベルは身を引き締めた。
 介添え、というものが具体的になにをするか判らないが、帝国の使者というからには、エゴイたちに絡むことだ。
 真っ青になっているアベルを尻目に、王とハルムは頷きあい、次にはかわいた声が響いた。
「そうじゃな。では、御使者の方、今日の良き日に、ちと協力していただきたい」
 宦官長の言葉に立ち上がったのはエゴイだ。
 アベルは彼の目が見れなく、咄嗟に顔を伏せた。まだヴェールは着けたままだが、すでにアイーシャによってその名を知らされてしまっている。エゴイも隣にすわっているアビラ子爵も、花嫁が実はアベル=アルベニス伯爵だということに気付いているのだ。
 こわばった顔で近づいてきたエゴイに、カイが告げた。
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