黄金郷の夢

文月 沙織

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決意 五

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 だが立ち止まることもなく、アベルは、今は涙をあふれさせないようにすることに命を賭けた。
「陛下、お待たせいたしました。お待ちかねの花嫁、アベル=アルベニス伯爵をお連れしましたわ!」
(ああ……)
 どうにか冷静をたもっていたアベルだが、とうとうアイーシャに名を出され、胸がつぶれた。
 エゴイがかすかに身じろぎし、アビラ子爵が動揺していることが感じられる。
 アイーシャの誇らかな声が広間に響き終わった数秒後、客たちは大歓声をあげた。
 それは、アベル=アルベニス伯爵の公開処刑のはじまりだった。

 ひとしきり喝采の声がやむのを待つようにして、玉座のディオ王が静かに立ち上がると、彼の背後の紫苑しおん色の垂れ幕が、するすると引き上げられる。
 そこには最初の夜に見た豪華な寝台があらわれ、アベルを鼻白ませる。
 宮殿の背徳に慣れているグラリオンの臣下たちはもとより、招かれた諸国の大使たちは興味津々だ。皆、物珍しげな貪欲な視線をアベルに向けてくる。
 これから衆人環視のなかで行われることを想像して、アベルは全身の血が凍りそうになった。そんなアベルの背を、菫たちが押す。否応なしにアベルの身体は寝台に近づく。
「待ちかねたぞ」
 王もまた、黒獅子の鬣のような長髪を背にかざり、純白の衣に身をかためていた。髪とおなじく漆黒の瞳は黒い太陽のように強烈な意志と酷烈こくれつな性分を秘めて、アベルをとまどわせ、おののかせた。
 思えば、ディオ王と口を聞いたのは、いや、こうやって顔を合わせるのは、あの最初の夜以来はじめてだ。
 あれからすでに二十日近い日がたっていたのだ。当初は十日もあれば済むと言われていたアベルの調教に予想以上の時間がかかったせいだ。
『陛下は、伯爵が完全に開花されるまで待つと仰ってくださったのです。感謝しなければなりませんよ。会えば、お礼を言うのです』
 そう、カイから言い聞かされたとき、アベルは腹立たしくて仕方なかった。
(なにが礼だ!)
 今も、こうして自分をこんな地獄に放り込んだ男を前にしていると、言いようのない憎悪がわいてくる。
(この男のせいで……私は……)
 伯爵という高貴な身分の自分が、すべてを奪われ、想像を絶する凌辱を受け、耐えがたい恥辱をあたえられ、あろうことか、祖国の知己ちきのまえに、この異様な姿をさらす破目になったのだ。アベルはおのれのはらわたがよじれるのを感じた。
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