黄金郷の夢

文月 沙織

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決意 四

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 そして、見知らぬ他国の使者にまじって、見覚えのある顔を見い出したときは、胸が破裂しそうになった。
 玉座に一番近い席に、彼らはいた。
(ああ……!)
 一瞬、目を閉じた。
 目を閉じ、何も見えなくなれば、この現状が消えてくれるのではないかと、はかない希望を込めて。だが、そんな都合のよい奇跡が起こるわけもなく、ふたたび目を開いたときには、さらにはっきりと、彼らの存在を感じることになる。
 エゴイと、アビラ子爵。
 東方の宴の習慣にしたがって、敷布のうえの低い座椅子に座っているエゴイは、長い脚をもてあまして居心地悪そうだ。鋭そうな黒い目で周囲をこっそり観察しているのが知れる。
 隣のアビラ子爵はグラリオン宮殿に来たのは初めてらしく、物珍しげにきょろきょろ辺りを見回している。かつては金色だった髪はすっかり色をうしない、今は錆びたような灰色で、老いを感じさせる。物見遊山ものみゆさんの客のようにまわりを見ている様子は、歳にしては落ち着きも品もなく、アベルはつい貴族らしからぬと見下してしまう。そして、そう思った瞬間、内心で苦笑せざるを得ない。
(今の私に比べたらまだましか……)
 泣きだしたくなるのをこらえて、あえて皮肉なことを思いながら、ふるえる足を動かす。
 あと数歩。あと数歩で彼らの前を通る。そして、もう数歩行けば、王の玉座だ。
(カッサンドラ……どこにいるのだ?)
 アベルは最後の頼みの綱の存在を思い出すことで、必死に正気を保とうとした。
 そうこう思っているあいだにも、時は残酷にもとまることもなく、アベルはとうとうエゴイたちの前に来た。
 瞬間、エゴイが凍ったような目でアベルの顔を凝視しているのが知れる。
(知られた……?)
 アベルはヴェールのなかで唇を噛みしめた。
 彼が今感じている、信じられないものを見たような驚愕と衝撃が痛烈にアベルにも伝わってくる。
 ヴェールのおかげで直接見ることはできずとも、顔の輪郭、隠しようのない目、それだけでも、エゴイには、今目のまえにいる花嫁衣裳をまとった〝美姫〟の正体が知れたようだ。カッサンドラからすでに幾らかはアベルの置かれている現状を聞いているのかもしれない。
(ああ……! 見るな! 見ないでくれ、エゴイ)
 声に出して言いたくとも、言えるわけもなく、アベルはとにかくその場に崩れずに姿勢をたもつことだけで精一杯だった。
 エゴイの隣のアビラ子爵の反応はさらに直截だった。
「信じられん……」
 その乾いた声のつぶやきは、しっかりとアベルの鼓膜を刺した。
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