黄金郷の夢

文月 沙織

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決意 三

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(まぁ、こんなに美しい人だとは……)
(勿体ないわね、美青年なのに。あっちは駄目なのかしら?)
(もう無理じゃない? 菫たちによって、すっかり開発されたそうだし)
(そうよね。聞いた? アイーシャ様の話? うふふふふ……すごかったらしいわよ)
(まぁ……! 清純そうに見えて、この花嫁御寮はとんだ淫乱ね)
 花の香と、時折庭から吹きよせてくる微風に、女たちの香料がまじり、同時に毒のある言葉の切れ端がアベルの耳にはこばれてくる。
 花嫁用のヴェールをすっぽりとかぶっているおかげで、顔を見られないことだけが唯一の救いだったが、しんぞうは激しく波打つ。
 アベルは恥辱の汗を背に感じながら、左右に並ぶ女たちの視線の剃刀かみそりに神経を削がれる痛みに耐え、歩をすすめた。菫たちに昨日も散々仕込まれた蓮歩れんぽのうごきで、奥の広場へと進む。
「色っぽい歩き方が身についたわね。今日のおまえは本当にいい女だわ」
 花嫁の付き添い人よろしく、アイーシャがかたわらで共に歩きながら、面白くてたまらないというふうにアベルを見ている。先を歩く二人の背後には三人の菫が付き従っている。
 アベルはさらに汗を感じ、つい歩みを止めそうになる。だが、せっつくように、アーミナが軽く臀部をはたく。
(ああ……)
 アベルは必死に声を殺した。
 アベル自身の後ろの庭園には、今もまた茹でた卵を入れられている。
 それが、じわじわと、生あるもののように熱を持ちはじめ、内部でアベルを焦がすのだ。
(ああ、どうすれば……)
 広間まではまだまだある。
 身体が発熱しているのがわかる。額にも背にも汗を感じ、肉体の中心に甘い疼きが生じはじめる。
 そういったことにさとい後宮の女たちは、アベルの変化を見逃してくれず、意味ありげに、唯一隠すことのできない潤んだアベルの碧眼を、じっくりと眺めてくる。
 あら、まぁ。ふふふふふ……。そんな毒蜜を混ぜたひそかな嘲笑が花の廊下にほのかに響くなか、アベルは死刑場に引き出される想いで歩を進めつづけた。

 小姓が花嫁の到来を告げるや、広間の客たちは湧きたった。
「おお、なんという美しい花嫁だ」
「まるで美の女神がグラリオン宮殿に舞い降りたようだ」
 称賛の言葉にひそむ揶揄と軽侮がアベルの神経をまた引っかく。客たちは皆、花嫁が男であることを知っているはずなのに、しらじらしくそんなことを言うのは、式の最前列に参列している異国の使者たちに聞かせるためだろう。
 アベルは無意識に参列客たちのなかで、目当ての人物を捜していた。
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