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決意 一
しおりを挟む「エゴイ=バルトラ公爵と話がつきました。式の日、現地でつのった傭兵をつかって急襲するという話です」
深夜、室をおとずれたカッサンドラは緊張したおももちでそう告げ、アベルは頷いた。
果たして兵達で守られた敵地の真ん中で、少数の傭兵だけで事が成るのか、非常に心配である。だが、それしか方法はないだろう。
「……私は助けられないと思えば見捨ててくれていい。だが、地下牢のドミンゴだけは助けてやってくれ。そう、公爵に伝えてくれないか?」
「……ですが、公爵はなんとしてもアベル様をお助けすると」
アベルは寝台のうえ、掛け布ごしに我が身を抱きしめ、首を振っていた。
「私は……もう生きて祖国へ帰れなくともいい……」
いや、帰れない――。
あの後……、卵を入れられた身体で、室じゅうを歩きまわされた。よちよち歩きのような歩き方をしてしまうアベルを見て、アーミナは手をたたいて笑い転げ、エリスも頬を染めつつ面白そうに見、カイはやはり冷静に鑑賞していた。
三人三様の視線にさらされ、散々歩かされて、やっと終わったあとは、また三人の見ているまえで四つん這いの姿勢を強いられ、卵を出すという屈辱極まりない行為を強制された。発狂しない自分がふしぎなぐらいだ。
(あんなことまでされて、生きて帰ることはできない)
他にもありとあらゆる恥をかかされてきた。もはや貴族としても騎士としても、このさき生きていけない気がする。
生きて帰りたいとは思わない。いや、もはや生きていてはいけないとすら思う。
ただ、ドミンゴだけは無事に逃がせれば、それで充分だ。
(ドミンゴを祖国へ帰してやったら、私は……自害しよう)
自害はアベルの国では神の教えに反する禁断の行為だが、それでも稀にする者もいる。
戦に負け、殺されるのを覚悟で敵のまえに投降する騎士の行為はほぼ自害に等しいだろう。過去にも、戦に負けて籠城していた騎士が、生き残った味方の命を守るためにみずから投降し、敵味方見守るなか、堂々と殺された例もあった。この場合は精神的自害、いや自決と言えるだろう。
「伯爵……アベル様……、もしや、ご自害を考えていらっしゃるのですか?」
カッサンドラはアベルの考えを読み取ったようだ。
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「……そこまで思い詰めるぐらいなら、いっそ、ディオ王と刺し違える勇気はございませんか?」
「え……」
思いもよらぬことを言われてアベルは息を飲む。
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