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初夜準備 四
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カイが真剣に首をひねったのに対し、エリスは首を横に振った。
「でも、男らしい仕草の方が、いっそう伯爵の美しさが際立つよ。女物の衣装をまとっても、やっぱり芯は男である方がそそられない?」
女衒が娼婦を売りだすにはどうするかと思案しているような会話に、アベルの背は怖気だった。
「とにかく、衣装をまとわせてしまおうぜ」
言うや、アーミナは花嫁衣裳の着付けにかかる。
豪奢な白絹の衣は、アベルの祖国のものにくらべれば量感はすくないが、この国のものにしては肌をおおう分がおおく、一瞬アベルを安堵させる。
さらに薄網の、これも白い面紗をかけられると、顔全体が霞をかぶったようで、鏡には、碧の目だけを光らせた〝花嫁〟が映り、アベルは内心ほっとした。これでは、エゴイたちが来ても、すぐにはアベルだと気づかないかもしれない。
「伯爵……綺麗ですよ。絶世の美女だ」
感心したようにエリスが溜息とともに賞賛の言葉を吐き、アーミナですら、目を見張っているのに対して、カイはどこか冷静だった。
「やっぱり、女らしく立って、歩いてもらわないと。伯爵、歩いてみてください。女らしく、貞淑な花嫁らしく」
(できるか!)
とは思いつつ、ここは我慢するしかないと、アベルはしぶしぶ石床の上を歩く。白い裳裾が揺れ、皮沓が足音をたてるのに、カイは眉をしかめた。
「音をたてないようにしてください。そんな大股ではなく小幅で歩くんですよ。花嫁がどたばた歩いたら興醒めでしょう?」
「……無理だ」
さすがにアベルは不満を抑えきれず、小声で抗ってしまう。それでも、今までのように怒鳴ったり睨みつけたりはしないだけ、彼にしてはかなり感情を抑えているのだ。
「仕方ないなぁ。それじゃ、これを入れてみたら? 俺のおやつにしようと思っていたんだけれど、貸してやるよ」
懐からアーミナが取り出したものは、アベルの顔色を変えさせるものだった。
「安心しろよ、毒蛇じゃないさ。ただの鶏の卵だよ。それも煮てあるから、割れにくいし」
さすがにこれ以上感情を殺しきれなくなったアベルは、頬をこわばらせ、アーミナと、彼の掌の卵に嫌悪の目を向けずにいられない。
「よ、よせ……!」
だがカイは卵を受け取って笑った。
「これはいい。これを入れたら、伯爵もちょっとは女らしく歩けるかもしれないな。少し湿らせよう。エリス、香油を取っくれ」
「はいはい」
「衣装を汚さないように、少しだけ。ほんの少しだ」
「でも、男らしい仕草の方が、いっそう伯爵の美しさが際立つよ。女物の衣装をまとっても、やっぱり芯は男である方がそそられない?」
女衒が娼婦を売りだすにはどうするかと思案しているような会話に、アベルの背は怖気だった。
「とにかく、衣装をまとわせてしまおうぜ」
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さらに薄網の、これも白い面紗をかけられると、顔全体が霞をかぶったようで、鏡には、碧の目だけを光らせた〝花嫁〟が映り、アベルは内心ほっとした。これでは、エゴイたちが来ても、すぐにはアベルだと気づかないかもしれない。
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「やっぱり、女らしく立って、歩いてもらわないと。伯爵、歩いてみてください。女らしく、貞淑な花嫁らしく」
(できるか!)
とは思いつつ、ここは我慢するしかないと、アベルはしぶしぶ石床の上を歩く。白い裳裾が揺れ、皮沓が足音をたてるのに、カイは眉をしかめた。
「音をたてないようにしてください。そんな大股ではなく小幅で歩くんですよ。花嫁がどたばた歩いたら興醒めでしょう?」
「……無理だ」
さすがにアベルは不満を抑えきれず、小声で抗ってしまう。それでも、今までのように怒鳴ったり睨みつけたりはしないだけ、彼にしてはかなり感情を抑えているのだ。
「仕方ないなぁ。それじゃ、これを入れてみたら? 俺のおやつにしようと思っていたんだけれど、貸してやるよ」
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「安心しろよ、毒蛇じゃないさ。ただの鶏の卵だよ。それも煮てあるから、割れにくいし」
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