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時、満ちて 六
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「た、たのむ。どうにかして、ドミンゴだけは助けてくれ」
「お約束はできませんが、全力を尽くします」
一瞬、安堵したが、つぎには不可解な気持ちにおそわれ、アベルは訊いていた。
「……だが、どうしておまえ、いや、そなたは、私に親切にしてくれるのだ?」
カッサンドラはアベルの疑問に複雑な笑みを浮かべた。
「私も、あなたと同じですから。無理やり……囚われて、この宮殿で虜囚のように生きるしかない女なのです……」
人さらい、人買いが、平然とまかりとおっていた時代のことである。
奴隷のなかには、幼いころに親元から引きちぎられるようにさらわれてきた者も多い。そういった不法な行為で売られてきた奴隷たちを大量に買うのは政の本山であるはずの宮廷である。買われた彼らは、生まれた家も祖国も家族のことも忘れて、新たな場所で奴隷としての人生を生きるしか道がない。
寂しげに笑うカッサンドラの様子には、初対面の宴の折、妖艶な半裸で男たちの視線を浴びて娼婦めいていた雰囲気はまるでない。アベルは我が身の不幸もわすれて、一瞬彼女の身の上に同情した。
「だから、あなたの気持ちがわかるのです。帰る国があるのなら、帰してさしあげたい……」
「そ、そうか。すまない」
アベルは生きるための力を与えてくれたカッサンドラに感謝して、その夜は彼女と別れた。
このとき、アベルは気づかなかった。
伝説の物語で伝えられる不吉な未来を予言する不幸な王女の名もまた、彼女と同じカッサンドラだったということを。
「お約束はできませんが、全力を尽くします」
一瞬、安堵したが、つぎには不可解な気持ちにおそわれ、アベルは訊いていた。
「……だが、どうしておまえ、いや、そなたは、私に親切にしてくれるのだ?」
カッサンドラはアベルの疑問に複雑な笑みを浮かべた。
「私も、あなたと同じですから。無理やり……囚われて、この宮殿で虜囚のように生きるしかない女なのです……」
人さらい、人買いが、平然とまかりとおっていた時代のことである。
奴隷のなかには、幼いころに親元から引きちぎられるようにさらわれてきた者も多い。そういった不法な行為で売られてきた奴隷たちを大量に買うのは政の本山であるはずの宮廷である。買われた彼らは、生まれた家も祖国も家族のことも忘れて、新たな場所で奴隷としての人生を生きるしか道がない。
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「そ、そうか。すまない」
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