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時、満ちて 五
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「三日後の式に、帝国の使者も招かれます。その際、どうにかして伯爵を助け出すから、と」
「し、使者の名は?」
「エゴイ=バルトラとおっしゃる帝国の公爵だとか」
エゴイの名が出たことでアベルの背はこわばった。アベルにとっては複雑な相手だ。
友人でもあるが、競争相手でもある。向こうもアベルをかなり意識している。勿論、友情や親しみを感じることもあるが……、正直、今のアベルは一番会いたくない相手だ。
思えば、女王からまかされた外交交渉を、彼に代わってやると言われたのを、意地になって自分が引き受け、そして、結局、失敗してこんな身の上にされてしまったのだ。
彼と顔を合わせたとき、どう我が身の状況を説明すればいいのか。考えただけでも身体じゅうの血が引く。
(もし、エゴイに私がこの国でされたことを知られてしまったら……)
とういて生きてはいけない。騎士としても、貴族としても、男としても、いや、人間として、もう終わりだ。アベルは絶望感に頭痛がしそうになった。
「あと、もう一人、初老の子爵で……たしかアビラ子爵と呼ばれていました」
アビラ子爵。
その名もアベルにとっては苦い意味がある。
アビラ子爵家とアルベニス伯爵家は遠縁の関係で、かつて困窮のあまり恥をしのんで借金を頼みに行ったことがあり、その際、けんもほろろに断られた。
借金を断られたぐらいなら恨んだりはしないが、その際、亡父の行状を散々になじられた。それだけ父が迷惑をかけたのだから恨むのは筋違いだとは思うが、アビラ子爵は、若いというより、まだ幼かったアベルにとって、最初に世間というものの冷たさ厳しさを痛いほどに教えてくれた人物である。
エゴイとアビラ子爵。二人ともアベルにとっては複雑な感情を持つ相手となるのだ。その二人に、もし……、ここでのことが知れたら……。
(それぐらいなら、助け出されるよりも、死んだ方がマシだ)
唇を噛んで考え込んでしまったアベルに、カッサンドラはしずかに告げた。
「囚人生活で、ドミンゴはかなり疲れているようですわ。すっかり痩せてしまって……」
(駄目だ、まだ死ねない)
アベルは悲壮な決意に唇を噛みしめなおした。
(そうだ。ドミンゴを残して死ぬことはできない。彼が無事祖国へ帰るのを見届けないと……)
アベルは意を決した。
「し、使者の名は?」
「エゴイ=バルトラとおっしゃる帝国の公爵だとか」
エゴイの名が出たことでアベルの背はこわばった。アベルにとっては複雑な相手だ。
友人でもあるが、競争相手でもある。向こうもアベルをかなり意識している。勿論、友情や親しみを感じることもあるが……、正直、今のアベルは一番会いたくない相手だ。
思えば、女王からまかされた外交交渉を、彼に代わってやると言われたのを、意地になって自分が引き受け、そして、結局、失敗してこんな身の上にされてしまったのだ。
彼と顔を合わせたとき、どう我が身の状況を説明すればいいのか。考えただけでも身体じゅうの血が引く。
(もし、エゴイに私がこの国でされたことを知られてしまったら……)
とういて生きてはいけない。騎士としても、貴族としても、男としても、いや、人間として、もう終わりだ。アベルは絶望感に頭痛がしそうになった。
「あと、もう一人、初老の子爵で……たしかアビラ子爵と呼ばれていました」
アビラ子爵。
その名もアベルにとっては苦い意味がある。
アビラ子爵家とアルベニス伯爵家は遠縁の関係で、かつて困窮のあまり恥をしのんで借金を頼みに行ったことがあり、その際、けんもほろろに断られた。
借金を断られたぐらいなら恨んだりはしないが、その際、亡父の行状を散々になじられた。それだけ父が迷惑をかけたのだから恨むのは筋違いだとは思うが、アビラ子爵は、若いというより、まだ幼かったアベルにとって、最初に世間というものの冷たさ厳しさを痛いほどに教えてくれた人物である。
エゴイとアビラ子爵。二人ともアベルにとっては複雑な感情を持つ相手となるのだ。その二人に、もし……、ここでのことが知れたら……。
(それぐらいなら、助け出されるよりも、死んだ方がマシだ)
唇を噛んで考え込んでしまったアベルに、カッサンドラはしずかに告げた。
「囚人生活で、ドミンゴはかなり疲れているようですわ。すっかり痩せてしまって……」
(駄目だ、まだ死ねない)
アベルは悲壮な決意に唇を噛みしめなおした。
(そうだ。ドミンゴを残して死ぬことはできない。彼が無事祖国へ帰るのを見届けないと……)
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