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時、満ちて 二
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王に献上される奴隷は王の持ち物であり、傷をつけてはいけない掟である。エリスの黒目は、気づかわしげにアベルの腫れた臀部に向けられている。
ほんのりと、熟れた果肉のように赤くなっている肌は、アイーシャの苛立ちとアベルの強情さをあらわして、痛々しげでもあれば、煽情的でもある。
「これは躾よ! 陛下からも、血を流さず、跡が残らないようなら、少しは打ってもいいとお許しをいただいているわ」
いつになくエリスは不満げな顔をしている。彼の伯爵への入れ込みようは、要注意かもしれない。だが、今はカイはエリスを注意するより、アベルへの調教をすすめることが大事だ。
「伯爵、陛下の御前で粗相をしたら、お詫びを言わねばなりません。さ、素直にお詫びしましょう」
「い、いやだ!」
聞き分けのない幼児のように首を振るアベル。だが、カイは近づいてみて気づいた。アベルの身体がこの折檻に熱くなっていることに。
下肢に張り付いている布が盛り上がっていることが知れる。
(おやおや。……ますます感度は良くなってきたみたいだな)
含み笑いをしながら、そっと自分の手で、アベルの臀部を撫でてやる。
「あ……よせ! さ、さわるな!」
頬を臀部以上に赤く燃やし、アベルは真紅の敷き布をにぎりしめて、四肢を踏んばらせ、迫りくる官能と必死に戦っているようだ。
だが、アベルの肉体はすでに彼自身に背き、敵であるはずのカイやアイーシャ、アーミナたちについてしまったようだ。
「あっ……、ああ……!」
決して力を入れたわけではなく、ただ尻にその手を置いているだけだが、そんな些細な熱をもった肌と肌、肉と肉の接触ですら、今のアベルにとっては引きずり出され、無理やり育てられてしまった欲望をそそのかす激しい愛撫となってしまっているようだ。
(これは驚いたな。感情をあまりあらわさないという異教徒の、それも貴族の男が、こんなに感じやすくなるとは……。これは、たいした掘り出し物だ)
カイは少し悪戯心を起こし、アベルの片尻を、やんわり力をこめて握るようにしてみる。
「はぁっ!」
アベルは猫のように背をのけぞらせた。高慢なまでに気位たかい美青年の、刺激にたいする思いもよらぬ率直な反応に、カイはふたたび目を見張った。
アイーシャと目が合うと、彼女も満面の笑みを浮かべている。カイは微笑みかえした。
悔しいが、彼女がアベルの調教に一役も二役も買ったのは事実だ。
宦官たちに責められるより、女、それも憎い王の側室に責められる方が何倍もアベルにとっては屈辱であったろうし、その屈辱が媚薬となってアベルを興奮させ、被虐の悦びをまなぶ助けになったことは否めない。
「伯爵、お喜びください。結婚式の日取りが決まりました」
ビクッ、とアベルの背が震えた。
ほんのりと、熟れた果肉のように赤くなっている肌は、アイーシャの苛立ちとアベルの強情さをあらわして、痛々しげでもあれば、煽情的でもある。
「これは躾よ! 陛下からも、血を流さず、跡が残らないようなら、少しは打ってもいいとお許しをいただいているわ」
いつになくエリスは不満げな顔をしている。彼の伯爵への入れ込みようは、要注意かもしれない。だが、今はカイはエリスを注意するより、アベルへの調教をすすめることが大事だ。
「伯爵、陛下の御前で粗相をしたら、お詫びを言わねばなりません。さ、素直にお詫びしましょう」
「い、いやだ!」
聞き分けのない幼児のように首を振るアベル。だが、カイは近づいてみて気づいた。アベルの身体がこの折檻に熱くなっていることに。
下肢に張り付いている布が盛り上がっていることが知れる。
(おやおや。……ますます感度は良くなってきたみたいだな)
含み笑いをしながら、そっと自分の手で、アベルの臀部を撫でてやる。
「あ……よせ! さ、さわるな!」
頬を臀部以上に赤く燃やし、アベルは真紅の敷き布をにぎりしめて、四肢を踏んばらせ、迫りくる官能と必死に戦っているようだ。
だが、アベルの肉体はすでに彼自身に背き、敵であるはずのカイやアイーシャ、アーミナたちについてしまったようだ。
「あっ……、ああ……!」
決して力を入れたわけではなく、ただ尻にその手を置いているだけだが、そんな些細な熱をもった肌と肌、肉と肉の接触ですら、今のアベルにとっては引きずり出され、無理やり育てられてしまった欲望をそそのかす激しい愛撫となってしまっているようだ。
(これは驚いたな。感情をあまりあらわさないという異教徒の、それも貴族の男が、こんなに感じやすくなるとは……。これは、たいした掘り出し物だ)
カイは少し悪戯心を起こし、アベルの片尻を、やんわり力をこめて握るようにしてみる。
「はぁっ!」
アベルは猫のように背をのけぞらせた。高慢なまでに気位たかい美青年の、刺激にたいする思いもよらぬ率直な反応に、カイはふたたび目を見張った。
アイーシャと目が合うと、彼女も満面の笑みを浮かべている。カイは微笑みかえした。
悔しいが、彼女がアベルの調教に一役も二役も買ったのは事実だ。
宦官たちに責められるより、女、それも憎い王の側室に責められる方が何倍もアベルにとっては屈辱であったろうし、その屈辱が媚薬となってアベルを興奮させ、被虐の悦びをまなぶ助けになったことは否めない。
「伯爵、お喜びください。結婚式の日取りが決まりました」
ビクッ、とアベルの背が震えた。
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