黄金郷の夢

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
87 / 150

花開くとき 二

しおりを挟む
 屈辱と恥辱に全身を薄紅色に染めあげ、〝馬上〟で悶えぬいて、さいごには、もうどうにもならなくてアイーシャの望むとおりに、醜態をさらしたアベル。
 あの瞬間、年上のアベルがひどくいじらしくて、けなげで、可愛い、とすら思ってしまった。
 身体をすくませ、顔を伏せ、啜り泣いていたアベル。
 汗に濡れた金の髪、熱をもって忍び入る陽光をはじいた純白の肌。
 白人の肌というものは、皆あれほど白く美しいものだろうか。いや、以前白人女の奴隷を調教したことはあったが、あれほどに白く清らかではなかった。
 汗と体液でびっしょり濡れた腰布が、ひきちぎられた紅薔薇べにばらの花のようにアベルの秘所にからみついているさまは、すばらしい一枚の絵のようだった。なによりアベル自身が引きちぎられた大輪の白薔薇のようだった。
 けれど、数秒すると、怒りと悔しさをかてにして、しおれた花が文字どおり返り咲くように、負けん気をあらわにして、アイーシャや自分たちを、あのみどりの瞳で睨みつけてきたときは、心底驚いた。
 両手は鎖につながれ、ほとんど全裸の惨めな姿で、しかもあれほど散々にいたぶられ哀れな姿をさらした直後だというのに、よくもあんな顔ができたものだと、エリスはほとんど感動していた。
 実際、頬は涙に濡れ、下肢には降伏と敗北の証しのような恥ずかしいしたたりがあきらかだというのに、それでもアベルはまぎれもなく誇りたかき騎士であり、彼にとっての異国の敵地という四面楚歌しめんそかの状況で孤軍奮闘こぐんふんとうする偉大な戦士だった。
 彼の悲愴なまでに気高い勇気と誇りたかい姿にくらべたら、王の寵愛や菫という地位にあぐらをかいて、抵抗できない人間をいたぶって威張りちらし喜んでいるアイーシャやアーミナが、ひどくちっぽけな存在に思えてくる。
 それだからこそか、敗れても敗れざらぬアベルの様子に、アイーシャはますます猛り、その後も幾度となく手酷い責め苦を与えたのだ。
 午前中いっぱい、アイーシャの責めはつづき、アベルの苦悶もつづいたのだが、それでもアベルは涙にきらきら光る双眼に怒りと敵意をこめて、アイーシャや自分たちを睨むことは止めなかった。
 午後はさすがにカイが入ってきて、アイーシャを引きあげさせ、アベルを休ませた。
 アイーシャは室を出るとき「陛下から鞭打ちの許可をもらってやるから!」と叫んだが、そのあと来なかったのは、王の許可が出なかったからだろう。
 それでも気になったエリスがカイに訊くと、カイは安心しろ、というふうに笑って請けおった。
「陛下は伯爵の身体を傷つけることをお望みではない」
 だが、カイのべつの一言がエリスの耳をひっかいた。「あまり、調教相手に入れ込まないように……」
 自分は、人目にあきらかなほど、アベルに入れ込んでしまっているのだろうか。エリスは自問してみた。
(入れ込んでしまっているんだろうな)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

捜査員達は木馬の上で過敏な反応を見せる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...