黄金郷の夢

文月 沙織

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開花寸前 五

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 アイーシャはうっとりとした顔で、〝馬上〟のアベルを見上げ、にんまりと笑う。
「遂きたい?」
 こく、こく、とアベルは首を縦に振るしかなかった。
 理性や誇りは、この気の遠くなるような生理的欲望のまえには吹きとんでいた。
「そう? じゃ、ゆるしてあげる」
 かすかに安堵に身体の力がぬけそうになったが、つづけてアイーシャは、アベルを発狂させるような言葉を発した。
「いいことを考えたわ。この木馬、随分気に入ったようだから、名前をつけてあげましょう。ドミンゴ、というのはどうかしら。ね、アーミナ、どう思う」
「ぴったりの名前ですね。さすがはアイーシャ様」
 いつもの迎合げいごう主義にのっとって、アーミナは感心したような声で賞賛する。
「いい、これからは、この木馬のことをドミンゴ、と呼ぶのよ。それで、ね」
 ふふふふふ……。
 地獄の底から響いてくるような声で、アイーシャはアベルをまさにその地獄に突き落とすような言葉を述べた。
「ゆるしてあげるかわりに、こう言いなさい。『ああ、ドミンゴ、なんてすごいんだ。お前のは最高だ』そう言いながら遂くのよ」
 アベルは体内の血が引いていくのを感じた。
 言ってから、アイーシャはわざとらしげにのけぞって笑い、つられたようにアーミナやほかの宦官たちも失笑をこぼす。
 エリスは今もまた、例の薇苦笑でやり過ごす。おそらく彼は生きづらい後宮生活を、そのかすかな苦笑でやり過ごして生きているのだろう。彼は助けにはならない。
 愉快そうに笑いつづける女へのあまりの憎悪に、意識が朦朧としてきたアベルだが、彼女の度をこした意地悪さと下劣さに、いっそ哀れみすら感じていた。
彼奴きゃつらは、人の皮をかぶった獣なのだ)
 異国の猛獣たちに吼えられているのだ。そう思うことでかろうじて救いを見い出そうとした。だが、体内の焦燥感はますます差し迫ってきて、アベルの腰を浮かす。
「ほうら、言ってごらん。言ったら、すぐ楽にしてあげるわ」
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