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開花寸前 一
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「大丈夫です。力を抜いて。暴れると、かえって危ない」
ジャムズの口調も声も、外見には似ず、充分に丁寧で優しいものであるのを感じたが、またもそれを感じ入る暇もあたえられず、アベルはただ拒絶の声を放つしかない。
「い、いやだ! 無理だ、無理だ、やめてくれ! やめろぉ!」
幼児が駄々をこねるように首を振り訴えるアベルに、ジャムズは、悪戯っ子を諭す師のようにやんわりと説明する。
「大丈夫です。これはそれほど大きなものではありませんし、油でたっぷり湿らせてあります。あなたの身体を決して傷つけない。身体の力を抜いて……」
「いや、いやだ! いや!」
いくら優しく言われても、もはや拒絶の言葉しか出せないアベルである。
「困った人だなぁ」
ジャムズは苦笑した。笑う顔など見せるのかと、アベルが驚くような素の顔だが、今のアベルはやはりそれに気づく余裕などない。
「ハルス、待て、身体が固すぎるな……。ほら、伯爵、こっちで楽しんでください」
「あ……!」
ジャムズの太い指が、アベルの胸の小粒をつまんだ。
つまんだといっても、まったく力がこもっていないので、親指と人差し指の二本が、ただ触れているという感じだ。だが敏感なところに触れてくる他人の肌の熱をふくんだ感触は、アベルの意識を覚まさせた。
我に戻ったアベルは、そのあるかなしの刺激に頬を燃やした。
「や、やめろ、はなせ……! さ、触るな! あっ、ああ……!」
アベルの言葉はまったく無視され、ジャムズの二本指は、つまんだりはなしたりを繰り返す。いたずらな動きがもたらす絶妙な刺激と感触に、アベルは眉を寄せずにいられない。
苦痛は……ない。まったくない。だが、脳を焦がすような焦れったさともどかしさが何とも言えないのだ。
「そう、そう。身体を楽にして」
「よ、よせ……」
制止を求めたはずなのに、かえって指の動きは速まり、圧力は強くなる。
ジャムズを真似るかのように、反対側からアベルを支えているハルスと呼ばれた宦官までもが、同じようにアベルの感じやすい箇所に指を伸ばしてきて、おなじことをした。
「うう……ん、うう! よせ、」
しばし、武骨な色黒の毛深い二本の手が、雪白の柔肌の上で踊った。
「くぅぅぅ! うう、うう、ううう……!」
不自由な姿勢はそのままで両隣からジャムズとハルスによって身体を支えられたまま、アベルは意地っぱりな少年のように、かたくなに首を振りつづけた。
だが、身体も表情も、先ほどまでとは打って変わって、声音までも柔かなものになってきているのは誰の目にも明らかになっていた。
「んんん……、こんな、こんなのは……嫌だ……、いや……」
ジャムズの口調も声も、外見には似ず、充分に丁寧で優しいものであるのを感じたが、またもそれを感じ入る暇もあたえられず、アベルはただ拒絶の声を放つしかない。
「い、いやだ! 無理だ、無理だ、やめてくれ! やめろぉ!」
幼児が駄々をこねるように首を振り訴えるアベルに、ジャムズは、悪戯っ子を諭す師のようにやんわりと説明する。
「大丈夫です。これはそれほど大きなものではありませんし、油でたっぷり湿らせてあります。あなたの身体を決して傷つけない。身体の力を抜いて……」
「いや、いやだ! いや!」
いくら優しく言われても、もはや拒絶の言葉しか出せないアベルである。
「困った人だなぁ」
ジャムズは苦笑した。笑う顔など見せるのかと、アベルが驚くような素の顔だが、今のアベルはやはりそれに気づく余裕などない。
「ハルス、待て、身体が固すぎるな……。ほら、伯爵、こっちで楽しんでください」
「あ……!」
ジャムズの太い指が、アベルの胸の小粒をつまんだ。
つまんだといっても、まったく力がこもっていないので、親指と人差し指の二本が、ただ触れているという感じだ。だが敏感なところに触れてくる他人の肌の熱をふくんだ感触は、アベルの意識を覚まさせた。
我に戻ったアベルは、そのあるかなしの刺激に頬を燃やした。
「や、やめろ、はなせ……! さ、触るな! あっ、ああ……!」
アベルの言葉はまったく無視され、ジャムズの二本指は、つまんだりはなしたりを繰り返す。いたずらな動きがもたらす絶妙な刺激と感触に、アベルは眉を寄せずにいられない。
苦痛は……ない。まったくない。だが、脳を焦がすような焦れったさともどかしさが何とも言えないのだ。
「そう、そう。身体を楽にして」
「よ、よせ……」
制止を求めたはずなのに、かえって指の動きは速まり、圧力は強くなる。
ジャムズを真似るかのように、反対側からアベルを支えているハルスと呼ばれた宦官までもが、同じようにアベルの感じやすい箇所に指を伸ばしてきて、おなじことをした。
「うう……ん、うう! よせ、」
しばし、武骨な色黒の毛深い二本の手が、雪白の柔肌の上で踊った。
「くぅぅぅ! うう、うう、ううう……!」
不自由な姿勢はそのままで両隣からジャムズとハルスによって身体を支えられたまま、アベルは意地っぱりな少年のように、かたくなに首を振りつづけた。
だが、身体も表情も、先ほどまでとは打って変わって、声音までも柔かなものになってきているのは誰の目にも明らかになっていた。
「んんん……、こんな、こんなのは……嫌だ……、いや……」
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