黄金郷の夢

文月 沙織

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九分咲き 一

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(見たくない! 見てはいけない!)
「駄目よ! 目を開けてよくご覧。でないと、ドミンゴの目が潰されるわよ」
 咄嗟に目を閉じたアベルだが、アイーシャの恫喝どうかつに目を開けざるを得ない。
「なにを恥ずかしがっているのよ? ほうら、綺麗じゃない?」
 アベルは恐怖に全身をこわばらせた。だが、恐怖以上に、いや、恐怖ゆえにか、いっそう身体は熱くなる。
 何かが追いかけてくるような、何かが込みあげてくるような、あの予兆。
 その正体に気付きはじめたアベルは全身を硬直させた。
 たしかに全身は固くなっているのだが、ふしぎなことに、身体の内側は逆にとろけていくのがわかる。
(ま、まさか……)
 信じらない。信じたくない。
 そう、いくらアベルが思っても、肉体は正直だった。
(あ……ああ)
 鏡はすべてを知らせてくれる。
 白い肌は恥辱に燃えてぼんやり淡く鴇色ときいろに染めあげられ、ほんのりと浮いた汗が、全身を朝露に濡れた薔薇のように魅惑的にかがやかせている。
 屈辱に、アベルの肉体はいっそう美しくなり、身体は潤み、心も……悦びを得はじめているのだ。屈辱と恥辱に!
 アベルは頭がくらくらしてきた。
 アベルが今味わっているものは……、もはや気づかない振りはできないところまで来ていた。
 これで二度目だ。もはや、あれは、いっときだけの間違い、とは言えなくなってしまった。
 この、身体の内側を焦がす熾火おきびに名をつけるなら、それは……被虐の悦び、というものだろうか。
 アベルは失神寸前だった。
 事実、数秒、魂は身体から離れた状況だったが、ぬめりを帯びた感触にすぐ呼びもどされた。
「よ、よせ!」
 胸に伸びてきたアイーシャの手に、我に返ったアベルは悲鳴をあげそうになったが、アイーシャは彼の過剰な反応がかえっておもしろいらしく、胸といわず、首や腹、腕を撫でまわしてくる。
 アベルはどうにかよけようと首や胸をそらすが、かなわない。
「ほほほほほほ」
「や、やめろ!」
 アベルがほとんど条件反射で身をよじった瞬間、〝それ〟が起こった。
(あ……!)
 体内で魔性の卵が孵化ふかした瞬間だった。
 あやうい官能の芽がえだした瞬間だった。
 アイーシャはじめ、アーミナやエリス、他六人の宦官たちの目に、アベルの肉体の変化と成長は明らかになった。
「伯爵、かなり進歩しましたね」
 アーミナが底意地の悪い笑みを浮かべて、指先でアベルの、自己主張をはじめた肉体の先をつついた。
「ち、ちがう、これは……!」
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