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毒蛇の歌 五
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「いいわ。約束するわ。おまえが言う通りにして、素直に調教を受けて、陛下の従順な〝妻〟となることを誓うなら、ドミンゴという男にはいっさい手出ししないわ」
「ち、誓う。誓うから、ドミンゴをこれ以上傷つけることはしないでくれ」
「ふん」
腰に手を当て、アベルを見下すような姿勢を取って、アイーシャは尚も権高に言う。
「じゃ、誓言しなさいよ。いい、こういうのよ、『私アベル=アルベニス伯爵は、陛下の良き妻、良き奴隷となることを誓います』と」
アベルは一瞬唇を噛みしめたが、ありたけの勇気を持って、震える唇から、その言葉を紡ぎだした。
そんな強いられた従順な態度が、かえってアイーシャの残虐性を高めたようだ。アイーシャは、いっそう胸をそらした。
「次はこう言ってごらん。『これからは、生まれ変わったつもりで、アイーシャ様や菫たちの調教を受けます』と」
頬が熱く燃える。口がからからに乾いていく。だがアベルには言うしかなかった。そんな彼の哀れきわまりない様子を、アーミナは満足そうに、エリスは複雑そうに見ている。
アベルは感情を殺して、機械的に口を動かした。
「ほほほほほ。本当に素直になったわ。良い子になったご褒美に、この腰巻を着けてあげるわ」
「ああ……」
覚悟はしたものの、身体はほとんど無意識に、アイーシャの手から逃れようとしてしまう。
アイーシャはそんな生贄の最後のあがきのような動きを目をほそめて見つめ、かぼそい手で、わざとゆっくりとした動きでアベルの腰に、薄紅の網布を巻きつけていく。
屈辱に耐えるために、アベルはせめてもの抵抗で目を閉じた。
「ふふん」
アベルのはかない抵抗を笑いながらも、アイーシャの手は止まらない。
仕上げに洒落た飾り紐で右腰のあたりできつく縛る。
紐先には真珠の飾りがついており、室になだれこむ陽光のなかで艶やかな光を放って見ている者たちの目を刺す。
その場にいたアベル以外の全員が軽く息を飲む音がたった。
数秒の沈黙のあと、アイーシャが愉快そうに手をたたく音が響いた。
「まぁ、思ったとおりよ。なんて似合うのかしら! ほら、ご覧、おまえたち。伯爵様の可愛い姿を、よぉーく拝ませてもらうといいわ」
室にアーミナや宦官兵たちの失笑の渦が湧く。
アベルは目を開けず、口も開かない。
一文字に口を閉じ、おぞましい現実を拒絶するようにして必死に己を守ろうとしたが、それすらもアイーシャには小憎らしいようだ。
「鏡の前に立たせてやるといいわ。目を開けて、自分の姿をよく見るのよ」
カチャリ、とまた鎖が物悲しい音をたてて、宦官兵たちがアベルの身体を動かす。そのあいだもアベルは意地になったように目を決して開けなかった。
壁の鏡の前に連れてこられたとき、業を煮やしたようにアイーシャが命じた。
「ち、誓う。誓うから、ドミンゴをこれ以上傷つけることはしないでくれ」
「ふん」
腰に手を当て、アベルを見下すような姿勢を取って、アイーシャは尚も権高に言う。
「じゃ、誓言しなさいよ。いい、こういうのよ、『私アベル=アルベニス伯爵は、陛下の良き妻、良き奴隷となることを誓います』と」
アベルは一瞬唇を噛みしめたが、ありたけの勇気を持って、震える唇から、その言葉を紡ぎだした。
そんな強いられた従順な態度が、かえってアイーシャの残虐性を高めたようだ。アイーシャは、いっそう胸をそらした。
「次はこう言ってごらん。『これからは、生まれ変わったつもりで、アイーシャ様や菫たちの調教を受けます』と」
頬が熱く燃える。口がからからに乾いていく。だがアベルには言うしかなかった。そんな彼の哀れきわまりない様子を、アーミナは満足そうに、エリスは複雑そうに見ている。
アベルは感情を殺して、機械的に口を動かした。
「ほほほほほ。本当に素直になったわ。良い子になったご褒美に、この腰巻を着けてあげるわ」
「ああ……」
覚悟はしたものの、身体はほとんど無意識に、アイーシャの手から逃れようとしてしまう。
アイーシャはそんな生贄の最後のあがきのような動きを目をほそめて見つめ、かぼそい手で、わざとゆっくりとした動きでアベルの腰に、薄紅の網布を巻きつけていく。
屈辱に耐えるために、アベルはせめてもの抵抗で目を閉じた。
「ふふん」
アベルのはかない抵抗を笑いながらも、アイーシャの手は止まらない。
仕上げに洒落た飾り紐で右腰のあたりできつく縛る。
紐先には真珠の飾りがついており、室になだれこむ陽光のなかで艶やかな光を放って見ている者たちの目を刺す。
その場にいたアベル以外の全員が軽く息を飲む音がたった。
数秒の沈黙のあと、アイーシャが愉快そうに手をたたく音が響いた。
「まぁ、思ったとおりよ。なんて似合うのかしら! ほら、ご覧、おまえたち。伯爵様の可愛い姿を、よぉーく拝ませてもらうといいわ」
室にアーミナや宦官兵たちの失笑の渦が湧く。
アベルは目を開けず、口も開かない。
一文字に口を閉じ、おぞましい現実を拒絶するようにして必死に己を守ろうとしたが、それすらもアイーシャには小憎らしいようだ。
「鏡の前に立たせてやるといいわ。目を開けて、自分の姿をよく見るのよ」
カチャリ、とまた鎖が物悲しい音をたてて、宦官兵たちがアベルの身体を動かす。そのあいだもアベルは意地になったように目を決して開けなかった。
壁の鏡の前に連れてこられたとき、業を煮やしたようにアイーシャが命じた。
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