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毒蛇の歌 三
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「せ、せめて……」
アベルは逡巡しつつも、もはや言うしかない。
「く、黒いのにしてくれ……。た、たのむ」
薄紅色の腰巻は生理的にとても耐えれず、アベルは不本意ではあったが、弱音を吐くように、敵に情けをもとめてしまった。
だが、どこまでも残酷なアイーシャはアベルの嘆願に、嘲笑で返してくる。
「いいじゃない、これがいいわ。決めたわ。これにしましょう。アーミナ、これを伯爵に着けておやり」
「はい、アイーシャ様」
面白がったアーミナが喜々としてその絹の責め具を手に近寄ってきたとき、アベルは身体じゅうの血が引くのを感じ、全身を総毛立たせた。
「く、来るな! そんなものを着けるぐらいなら、舌を噛み切って死んでやる!」
本気でそう思っていた。
これ以上生き恥をさらすぐらいな、いっそ禁を破ってアベルが死を選ぼうとした、まさにその瞬間、扉の開く音がアベルの気を削いだ。
「お待たせいたしました」
入ってきたのはエリスだ。
いつになく緊張した面持ちで、両手には東洋産らしき白磁の皿を手にしている。彼はしずかな足取りで寄ってくると、ちょうど向きあう形になっているアベルとアイーシャたちのはざまに割りこみ、その皿を両者に見えるようにしてみせる。
「……?」
皿の上の小さな物体を見た瞬間、アベルにはそれが虫のように見えた。潰されて血にまみれた白っぽい虫。
だが、よく見ると……。
エリスが顔を伏せたまま告げた。
「伯爵の従者ドミンゴの奥歯です。アイーシャ様の御要望によりお持ちしました」
「なっ……!」
衝撃にアベルは息を飲んだ。
数秒凍り付いたまま皿の上の歯を凝視し、つぎに沸いてきた怒りに駆られ、鎖を鳴らしながら身体を震わせた。
「な、なんて酷いことを! 卑怯者! ドミンゴに罪はないだろう? 私を殺せば済むことだろう!」
忠実な従者が味わった痛みや恐怖を想像すると、アベルは自分の置かれた今の状況も忘れて、彼のために怒り、怒鳴らずにいられない。ドミンゴのために涙があふれた。
アベルは逡巡しつつも、もはや言うしかない。
「く、黒いのにしてくれ……。た、たのむ」
薄紅色の腰巻は生理的にとても耐えれず、アベルは不本意ではあったが、弱音を吐くように、敵に情けをもとめてしまった。
だが、どこまでも残酷なアイーシャはアベルの嘆願に、嘲笑で返してくる。
「いいじゃない、これがいいわ。決めたわ。これにしましょう。アーミナ、これを伯爵に着けておやり」
「はい、アイーシャ様」
面白がったアーミナが喜々としてその絹の責め具を手に近寄ってきたとき、アベルは身体じゅうの血が引くのを感じ、全身を総毛立たせた。
「く、来るな! そんなものを着けるぐらいなら、舌を噛み切って死んでやる!」
本気でそう思っていた。
これ以上生き恥をさらすぐらいな、いっそ禁を破ってアベルが死を選ぼうとした、まさにその瞬間、扉の開く音がアベルの気を削いだ。
「お待たせいたしました」
入ってきたのはエリスだ。
いつになく緊張した面持ちで、両手には東洋産らしき白磁の皿を手にしている。彼はしずかな足取りで寄ってくると、ちょうど向きあう形になっているアベルとアイーシャたちのはざまに割りこみ、その皿を両者に見えるようにしてみせる。
「……?」
皿の上の小さな物体を見た瞬間、アベルにはそれが虫のように見えた。潰されて血にまみれた白っぽい虫。
だが、よく見ると……。
エリスが顔を伏せたまま告げた。
「伯爵の従者ドミンゴの奥歯です。アイーシャ様の御要望によりお持ちしました」
「なっ……!」
衝撃にアベルは息を飲んだ。
数秒凍り付いたまま皿の上の歯を凝視し、つぎに沸いてきた怒りに駆られ、鎖を鳴らしながら身体を震わせた。
「な、なんて酷いことを! 卑怯者! ドミンゴに罪はないだろう? 私を殺せば済むことだろう!」
忠実な従者が味わった痛みや恐怖を想像すると、アベルは自分の置かれた今の状況も忘れて、彼のために怒り、怒鳴らずにいられない。ドミンゴのために涙があふれた。
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