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毒蛇の歌 一
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怯えたように震えている若茎を、じっとりと嬲るように見るアイーシャの目は飢えた雌獣そのものだ。一方、おなじように、羞恥にふるえるアベルの若いすこやかな肉体を眺めるアーミナの黒玻璃の目は、凍ったように冷え冷えとして、まるで蛇のようだ。
異教徒たちによって無残にむかれたアベルの身体は、こんなときでも見る者の目を見張らせるほどに美しかった。
白人種にしても色は白く、全身が乳白色にかがやき、白い裸体にふたつきらめく紅玉のような胸の突起。屈辱に浮いた額の汗が、玻璃の破片のようにきらきらと庭から差しこむ朝の光に映えている。
胸も肩も腕も、臀部も、脚も、多少肉が落ちても、充分に男としての強靭さとしなやかさを備えて、ほどよい筋肉の存在を感じさせ、連日連夜の虐待にも挫かれることなく、生命の強さに満ちて、神々しいほどに光りかがやいて観察者を唸らせる。
十日近くにも及ぶ凌辱行為を受けて、これほど貶められても、むしろグラリオンへ来た当初よりも、いっそうアベルは美しくなったと言えるだろう。アベル=アルベニス伯爵の生来の美質や麗貌は、崩されることも汚されることもなく、それどころか、この試練によって、どこか殉教者めいた悲哀すら備えだし、見る者の胸を打つほどに極められてきているのだ。
それはアーミナを、悔しさに地団駄ふませるほどのもので、両腕を吊り上げられたアベルを見つめる彼の双眼が、だんだん昏いものを放ちはじめた。
アーミナが宦官になるべく去勢の処置を受けたのは五歳のときだった。
貧しい両親がアーミナを奴隷商人に売り、幼いながらも彼の優れた容姿に目をつけた商人が宮殿へ売りつけたのだ。宦官になる者の多くは異国から売られてきた奴隷、戦で囚われた捕虜、そして貧しさ故に保護者に売られた者だ。なかには一生貧乏するよりは、宮殿で出世の糸口をつかめれば、と下流階級の親が望んで売る場合も稀にはある。
男性器切除という残酷な処置は、壮絶な苦痛と恐怖をもたらすもので、死に至る者も多く、成人してからよりも成長未発達な段階で受ける方が心身におよぼす傷は軽いとみなされている。実際、幼児期に施術を受けた者の方が死亡率も少ない。五歳で施術を受けたアーミナは幸運だったと人によく言われた。
しかし五歳で男の象徴を失くしたアーミナには、本来なら通過すべき思春期も謳歌すべき青春も無いも同然だった。
さらにアーミナにとって不幸だったのは、幼児期に宮殿に入った宦官は、先輩の宦官を親代わりとして、保護と学びを受ける制度があるのだが、彼の最初の師というのが、たいへんな残虐嗜好の持ち主だったことだ。
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それはアーミナを、悔しさに地団駄ふませるほどのもので、両腕を吊り上げられたアベルを見つめる彼の双眼が、だんだん昏いものを放ちはじめた。
アーミナが宦官になるべく去勢の処置を受けたのは五歳のときだった。
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