黄金郷の夢

文月 沙織

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花、開くまで 六

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 アーミナの言葉にアベルは吼えた。
「打ちたければいくらでも打て。いっそ、私を打ち殺すがいい!」
 毅然とした態度で言い放つアベルをエリスがあわててたしなめる。
「そんなこと言っては駄目だって、伯爵」
 顔色が青ざめているのは、下手すれば残忍な側室が本気でアベルを責め殺すのでは、と案じてのことだろう。そんな二人を見据え、アイーシャはのけぞって笑った。
「面白いわね。でも、この奴隷に鞭は通用しないでしょう。……いいわ。エリス、ちょっと用事を頼まれてちょうだい」
 何やらアイーシャに耳打ちされ、エリスは一瞬顔をこわばらせ、無言で室を出る。
「エリスに用を果たしてもらっている間に、おまえの調教準備をしましょうか? あら、お前、まだそんな不粋ぶすいなものを纏っているの」
 宦官兵たちによって引きずり起こされたアベルの下肢を覆っている簡素な帯布に目を止めて、アイーシャは細長い黒眉をゆがめた。
「よ、よせ! 来るな!」
「今更なに言ってるんだよ。もっと恥ずかしい恰好だって散々晒してきたくせに」
 アーミナの憎まれ口を気にとめる余裕もなく、どうにかしてアベルは女の魔手から逃れようとしたが、両腕を後ろで巨漢の兵たちに抑え込まれた今の状況で無理だった。しかも手首には重い鉄の輪と、それに鉄の鎖が繋げられているのだ。
「ふふふふ。贈り物は気に入らなかったのかしら? どれも上等な物なのだけれど」
 アイーシャが薄紅色の腰巻を手にして、さも残念そうな顔を作ってみせた。
「き、気に入るわけがないだろう! 下種女!」
「あらあら。お口の悪い奴隷ね。これは躾が難しいわね」
「よ、よるな!」
「駄目よ。さ、着替えましょうね」
 不覚にもアベルはほとんど泣き出しそうになっていた。後退あとずさりたくとも、兵たちによって両腕を天井に繋げられてしまっており、足はかろうじて自由だが、動ける範囲はかぎられている。目の前に、獰猛な雌豹が迫ってきている。
「あ、よせ!」
 一瞬、頬に羞恥の火花が散った。
「うふふふふふふ」 
 唯一身を守っていた腰布を奪い取られてしまったのだ。
 室の隅に並んで控えている、ジャムズをふくめて四人の宦官兵たちの目を意識して、アベルは羞恥に身をよじりそうになった。むろん、背後の二人の宦官や、前方のアイーシャとアーミナの目線も辛い。
「ふふふふ。いい恰好だね、伯爵。サンダルも脱がしますか?」
「それはそのままでいいわ。あらあら、縮こまってしまって」
「み、見るな!」
 アベルは必死に腰をかがめるような姿勢を取ったが、おかげでいっそう猥褻で淫らな姿になった。
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