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花、開くまで 四
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こうやって身体のみならず心も作り変えられ、祖国の神が見捨てたもうた、この異国の伏魔殿で、異教徒の権力者のなぐさみ者として生きることになるのだろうか。
由緒あるアルベニス伯爵家の末裔である自分が。偉大な女王の信頼を受けた誇り高き騎士でもあった自分が。
そんなアベルの絶望や煩悶など知ることもなく、平然と下着を見分しているエリスがたまらなく恨めしい。
男でもなく女でもない魔物めいた特殊な嗜好を持つ生き物たちに囲まれ、これから自分もああなってしまうのだろうか。
女物の肌着を手に持ち、頬ずりせんばかりに愛玩しているエリスの存在は、アベルにとって恐怖だった。
「あんたさぁ、本当にもういい加減、素直になったらどうさ?」
アベルの表情と、エリスを見ていた目から、アーミナは何かを察したらしく、ぞんざいな口調で吐き捨てるように告げた。
「何度も言うけれど、祖国じゃどれだけ高潔な騎士で、ご立派なお貴族様だったか知らないけれど、今のあんたはグラリオン後宮の奴隷なんだって」
「私は奴隷ではない! 帝国の伯爵であり騎士だ!」
アベルの血を吹くような叫びを、アーミナは鼻で笑った。
「はいはい。それはもう過去のことなんだよ。今じゃ、後宮の奴隷で、男妾で男娼なんだよ。陛下のお声を待つ犬みたいなもんじゃないか」
「貴様!」
犬呼ばわりされた瞬間、怒りに目の前が真っ赤になった。アベルはほとんど無意識にアーミナの衣の胸ぐらを掴んでいた。
あわてたのはアーミナだ。彼はよもや奴隷が自分にさからうなど予想もしていなかったらしい。まして昨夜あれほど打ちのめされたアベルのなかに、これほど激しい気力と野性が残されていたことが信じられないようだ。
「駄目ですよ、伯爵。そんなことしたら、鞭で打たれますよ」
エリスの声など聞こえるわけもなく、アベルはアーミナの首に右腕をかけた。
今のアベルは手足が自由だ。これは逃げ出す機会だ。体力は減っているが、それでも幼少期から帝国の騎士になるべく鍛えられ、武芸も体得している。少年宦官二人ぐらい、なんとかなるとアベルは踏んだ。
(武器になるものは……?)
調度棚に目をやった。玻璃の瓶を割るか、剃刀でもないか……。そんなことを思い巡らし、アーミナを捕らえたまま、アベルは身体を動かす。
「あーあ、もう、しょうがないなぁ」
意外なことにエリスはすぐ落ち着きを取り戻して、呆れたような目を向けている。
「伯爵、そんなことしたって、逃げきれませんよ。さ、大人しくアーミナを放して、この下着を身につけてくださいよ。今日は午後からアイーシャ様の調教も受けないといけないんですから」
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そんなアベルの絶望や煩悶など知ることもなく、平然と下着を見分しているエリスがたまらなく恨めしい。
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女物の肌着を手に持ち、頬ずりせんばかりに愛玩しているエリスの存在は、アベルにとって恐怖だった。
「あんたさぁ、本当にもういい加減、素直になったらどうさ?」
アベルの表情と、エリスを見ていた目から、アーミナは何かを察したらしく、ぞんざいな口調で吐き捨てるように告げた。
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「貴様!」
犬呼ばわりされた瞬間、怒りに目の前が真っ赤になった。アベルはほとんど無意識にアーミナの衣の胸ぐらを掴んでいた。
あわてたのはアーミナだ。彼はよもや奴隷が自分にさからうなど予想もしていなかったらしい。まして昨夜あれほど打ちのめされたアベルのなかに、これほど激しい気力と野性が残されていたことが信じられないようだ。
「駄目ですよ、伯爵。そんなことしたら、鞭で打たれますよ」
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