黄金郷の夢

文月 沙織

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邪淫の目覚め 二

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「伯爵、お辛いでしょうが、このままでは本当に蛇が伯爵のなかでかえってしまうかもしれません。いくら小さくても毒を持っているかも……。ここは、アイーシャ様のおっしゃるとおりにされた方がよろしいかと」
 エリスのかしこまった丁寧な言葉に、アベルは金の眉を寄せ、目を閉じた。白い頬が、汗とは別のもので濡れていく。
「せ、せめて、向こうをむいていてくれ……」
 弱音めいたことは言いたくないが、このときはもうアベルは限界にきていた。
「なに言っているのよ、それでは意味がないでしょう? ほら、早く産みなさい。ほら!」
 アイーシャが扇の羽先でアベルのほんのり赤ずんでいる胸の先端をつつく。
「うっ……! うう」
 あるかなしかのもどかしい刺激は、アベルの脳髄をとろかす。四肢をつっぱらせ、首を振る。どこか幼児めいてきたその仕草に、アイーシャの唾を飲む音が響きそうだ。
「ふぅっ、ううっ、ううっ!」
 アベルは悔しげに、切なげに、汗と涙に濡れた頬やうなじを黄昏の光のなかにゆらめかせ、耐えきれなくなったように嗚咽をこぼした。
「すさまじい恰好ね。お美しい伯爵様が、脚をふんばってお尻を突き出して」
 辱しめの言葉に、もういっそ舌を噛み切って果ててしまいたい、とすらアベルは思ったが、それでも死ぬことはできず、そんな死ねない我が身が呪わしく、口惜しく、ふたたび嗚咽する。
「ううっ! ううっ! うううっ!」
 どこまでも残酷なアーミナが、膝を折ってかがみこむと、帯をまくりあげ、声高に言う。
「おや、出てきた、出てきた」
 アイーシャがはしゃいだ声をあげる。
「ほほほほほ。ほら、もうちょっとよ」
 エリスやサライアも、目元を赤く染めて、うっとりとアベルの凄まじい姿に魅入られたように目を離せないでいる。
「はぁ! ああっ! ああああ!」
 辛そうな絶叫のあと、皿を打つ音。
「お、出た!」 アーミナが皿に落ちた卵を検分し、ふくみ笑いを浮かべる。殻は欠けているが、卵白はこぼれていない。
 アイーシャとアーミナの黒い目がかち合う。
 卵は、最初に孵化したもの以外は、形のよく似た山鳥の卵であり、しかも茹でてあるものだった。
 そのことに気付かないでいるアベルは、必死になってもうひとつの卵を排出しようと踏ん張っている。浅ましく、哀れで、どこかいじらしく、どこか悲しく、そして美しい姿だった。
 見物人たちは魅入られきったように、アベルの淫らな姿と恥辱にみちた行為を眺めつづけた。

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