黄金郷の夢

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
49 / 150

毒園の花 六

しおりを挟む
 怒りも忘れて籠の底の白い物体を凝視しているアベルに、アイーシャは細い指でそのなかのひとつを摘まみあげ、これみよがしにアベルの鼻先に突き出してくる。
「ふふふふ。ご覧くださいな」
 すかさずサライアが、それも籠底に用意していたらしい銀の小皿を床に置く。
 皆が見ているまえで、アイーシャはみずから卵を皿上に置いた。
「ちょうど頃合いをみはからって持ってきましたから、もうそろそろかしら」
 アベルは自分の顔色が変わっていっていることに自分でも気づいた。
 なんのためにアイーシャがこういう真似をするのか、卵がなにを意味するのか、今の時点ではアベルの思考では想像つかないが、とてつもなくおぞましい予感がするのだ。
「あ、ほらほら、かえるわ!」
 わざとらしげにアイーシャがはしゃいだ声をあげて両手をたたく。まるで子どものような仕草だが、事実アイーシャは芳紀ほうき十九歳。この時代の感覚では、少女、と呼ぶのは無理でも、まだ娘と呼べる年齢である。だが、その短い人生のあいだに、いったいどんな経験をしてきたのか、彼女の美しい顔には言いようのない邪悪さがにじみ、つややかな漆黒の瞳は残酷さをたたえて光り、アベルをたじろがせた。
 やがて……、見物人たちの見守るなか、変化が起きた。
 カシャ、カシャ……という殻の割れる音がして、なかの物が出てきたのだ。
 室は異常にしずかになり、アベルのみならず、皆銀皿から目が離せない。人々の凝視のなか、あらわれたのは……、
「蛇だ」
 エリスの言うように、皿には緑色の小蛇がのたうっている。
「ふふふふふ。気をつけて。毒を持っておりますのよ。まぁ、この大きさなら、たいしたことはないかもしれませんが」
 アイーシャは満面の笑みを、呆然としているアベルに向けた。
「卵はまだいくつもありますの。これを、好きなだけ伯爵さまに差し上げますわ」
 アベルは血の気が引くのを感じた。それがどういうことを意味するのか、目の前の妖婦がなにを考えているのか、ここ数日の調教で解る身体になってしまっていたのだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

捜査員達は木馬の上で過敏な反応を見せる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...