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毒園の花 六
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怒りも忘れて籠の底の白い物体を凝視しているアベルに、アイーシャは細い指でそのなかのひとつを摘まみあげ、これみよがしにアベルの鼻先に突き出してくる。
「ふふふふ。ご覧くださいな」
すかさずサライアが、それも籠底に用意していたらしい銀の小皿を床に置く。
皆が見ているまえで、アイーシャはみずから卵を皿上に置いた。
「ちょうど頃合いをみはからって持ってきましたから、もうそろそろかしら」
アベルは自分の顔色が変わっていっていることに自分でも気づいた。
なんのためにアイーシャがこういう真似をするのか、卵がなにを意味するのか、今の時点ではアベルの思考では想像つかないが、とてつもなくおぞましい予感がするのだ。
「あ、ほらほら、孵るわ!」
わざとらしげにアイーシャがはしゃいだ声をあげて両手をたたく。まるで子どものような仕草だが、事実アイーシャは芳紀十九歳。この時代の感覚では、少女、と呼ぶのは無理でも、まだ娘と呼べる年齢である。だが、その短い人生のあいだに、いったいどんな経験をしてきたのか、彼女の美しい顔には言いようのない邪悪さがにじみ、つややかな漆黒の瞳は残酷さをたたえて光り、アベルをたじろがせた。
やがて……、見物人たちの見守るなか、変化が起きた。
カシャ、カシャ……という殻の割れる音がして、なかの物が出てきたのだ。
室は異常にしずかになり、アベルのみならず、皆銀皿から目が離せない。人々の凝視のなか、あらわれたのは……、
「蛇だ」
エリスの言うように、皿には緑色の小蛇がのたうっている。
「ふふふふふ。気をつけて。毒を持っておりますのよ。まぁ、この大きさなら、たいしたことはないかもしれませんが」
アイーシャは満面の笑みを、呆然としているアベルに向けた。
「卵はまだいくつもありますの。これを、好きなだけ伯爵さまに差し上げますわ」
アベルは血の気が引くのを感じた。それがどういうことを意味するのか、目の前の妖婦がなにを考えているのか、ここ数日の調教で解る身体になってしまっていたのだ。
「ふふふふ。ご覧くださいな」
すかさずサライアが、それも籠底に用意していたらしい銀の小皿を床に置く。
皆が見ているまえで、アイーシャはみずから卵を皿上に置いた。
「ちょうど頃合いをみはからって持ってきましたから、もうそろそろかしら」
アベルは自分の顔色が変わっていっていることに自分でも気づいた。
なんのためにアイーシャがこういう真似をするのか、卵がなにを意味するのか、今の時点ではアベルの思考では想像つかないが、とてつもなくおぞましい予感がするのだ。
「あ、ほらほら、孵るわ!」
わざとらしげにアイーシャがはしゃいだ声をあげて両手をたたく。まるで子どものような仕草だが、事実アイーシャは芳紀十九歳。この時代の感覚では、少女、と呼ぶのは無理でも、まだ娘と呼べる年齢である。だが、その短い人生のあいだに、いったいどんな経験をしてきたのか、彼女の美しい顔には言いようのない邪悪さがにじみ、つややかな漆黒の瞳は残酷さをたたえて光り、アベルをたじろがせた。
やがて……、見物人たちの見守るなか、変化が起きた。
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