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毒園の花 一
しおりを挟む宮殿の西端の厨房では、大勢の下女や宦官たちが忙しげに働いていた。湯気がこもり、調理の匂いがただよう。
アーミナは籠に盛られてあるオレンジに手を伸ばした。誰も文句はいわない。菫の地位は後宮においては絶大なのだ。
「あら、アーミナ、ここでさぼり?」
近寄ってきたのは顔なじみの侍女だ。
「休憩しているんだよ、サライア」
「いいご身分ね。エリスは一緒じゃないの?」
「今は、例の〝奴隷〟に朝の入浴をさせているころだよ」
「ああ、例の……」
サライアと呼ばれは女は細長い眉をゆがめた。奥仕えの侍女である彼女は後宮内においても白網のヴェールで顔をおおっている。
「その件でうちのご主人様は、ずっとご機嫌ななめよ」
サライアの主人は筆頭寵姫アイーシャだ。王が異国の貴族を妻にするというのが面白いわけもない。しかも男である。
また、彼女は例の木馬の贈り主でもある。ああいうものを、自分の競争相手になろうという相手に贈りつけるところからして、アイーシャという女の性格が見えてくる。
「実を言うとね、……アイーシャ様は、最近、懐胎薬をお求めでね。いろいろ商人たちから買いあつめているのよ。これも、そうよ」
サライアは手にしている小さな金瓶に目を落とす。
「ふーん」
アイーシャにかぎらず、後宮の女たちは、どうにかして王の寵愛を得、あわよくば子を成そうとする。王の愛や、子を得るかで女の人生はまったく変わったものになるのだから当然だろう。現在ディオ王には正式な妃はおらず、息子もいない。皇太子時代に側室とのあいだに女児をもうけたが、その王女は五歳で亡くなり、側室も心痛のあまり亡くなったという。まだ直系の後継者がいない状況だ。もし、きまぐれにでも彼の情を得て子ども、それも男子を得れば、人生が変わる。
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「でも、肝心の陛下が来られないのですもの。……甲斐がないわ。おかけでアイーシャ様はずっとお腹立ちで、些細なことで下女や宦官を鞭で打たれるのよ。困ったものだわ」
「ふうん……」
さっさと戻ろうかと思っていたが、サライアの話にアーミナは引かれるものを感じた。
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