黄金郷の夢

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
40 / 150

陥穽 四

しおりを挟む
「そうか。満開になるには、まだもう少し時間がかかるな」
 王の目には、おそらくは薄紫の花びらを開けはじめた鳳凰木と、アベルの白い肌が映っているのだろう。
「待ち切れないようでしたら陛下、明日にでも、よろしいのでは? 六部咲きほどの花も、一興かもしれませぬ」
 カッサンドラの言葉に、控えていた男の肩がかすかに揺れる。
「ふむ」 
 数秒迷うような顔をした王だが、笑って首をふった。アベルはまだ花弁を開けきれない早生わせの花だ。完全に開花させるには、今少し時と、水と肥料がいるだろう。
「いや、やはりもう少し待つか。待つのも楽しみじゃ。予定どおりで事を進めるがよい」
「かしこまりました」 カッサンドラは頭を垂れた。
「では、行くとするか。よいか、おまえは今後もしっかりとあの〝小窓〟からアルベニス伯爵の様子を観察しているように。不穏な動きがあれば、すぐハルムかカイに伝えるのだぞ」
「か、かしこまりました」 
 男はあわてて首を縦に振った。

「では、伯爵、今日からは連珠れんじゅを使います」
 カイの言葉にアベルは唇を噛みしめた。
 うっすらと覚悟はしていたが、水晶の皿に載せられて出されたトパーズのつらなりを見るや、血の気が引いていくのを自覚せずにいられない。
「ご安心ください。こうしてたっぷりと濡らして」
 言うや、カイは香油のはいった紅玻璃べにはりの瓶を皿の上でかたむける。見るまに、とろとろと油に浸されて、色を変えたトパーズは、差しこんでくる陽光に、その濡れた色をきらきらと妖しく輝かせ、アベルの目を釘付けにする。
「や、やめろ……」
 言っても無駄だと思いながらも、言わずにいられない。
「往生際が悪いなぁ。ほら、準備をして」
 アベルは怒鳴りたいのをどうにか堪え、いつものように褥の上で四つん這いになり、アーミナに今までにも幾度となく強制されたように、腰を突き出す屈辱の姿勢をとる。一応、腰には白絹の帯布を巻かれているのがまだ救いだ。
 だが、それもアーミナによってまくりあげられ、白い尻が少年宦官たちの前にあらわにされてしまう。
「く……」
 それだけでも羞恥に額に汗を感じる。
 ずしり、と首と手首の枷もいつも以上に重く感じる。もはや、二度とこの枷を外されることはないのではないか、という絶望的な想いに負けてしまいそうだ。
(いや、カッサンドラがなんとかして、帝国の使者に伝えてくれるかもしれない。諦めるな。今は……耐えろ、耐えるのだ)
 アベルはみずからを叱咤した。
 そんなアベルの様子をどう取ったのか、エリスがはずんだ声で言う。
「やっと覚悟を決めたんですね、伯爵。大丈夫ですよ、怖いことなんて何もありませんよ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...