黄金郷の夢

文月 沙織

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毒菫 八

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「そうだよ、あんたが眠っている間に運ばせたんだ。部屋に置いて、いつもあれを側に見ていると、やる気を出してくれるんじゃないかと思ってね」
 立ちあがって室の奥に行くと、アーミナはアベルの見ている前で、掛けてある布をはぎとった。刹那、アベルは背がこわばった。食べたばかりの物を口からもどしそうになる。
 そこにあったのは……、

 黒々とした木馬。

 等身大の馬よりかはやや小作りにできているだろうが、たてがみも目も、まるで本物のようによく出来ている。そして、その黒い背には……、おなじく黒檀でできた陽根がそびえているのだ。
 アベルは見ていられなくて、あわてて目を伏せた。だが、視界に貼りついたように、馬の背の醜悪な突起物は、目を閉じても浮かんでくる。
 今も濡れたように黒光りしているそれは、精巧にできているだけに嫌悪感を持たずにいられない。よくぞ、こんな悪魔めいた道具を作ったものだ、とこれを作らせた者たちの悪意と下劣さに吐き気すらおぼえる。
「おや、どうしたのさ、伯爵? そんな怖い顔になってしまって。せっかく喜んでくださると思って用意したのに」
「アーミナったら……おやめよ、伯爵が怯えていらっしゃるよ」
 困ったように苦笑するエリスに、アーミナは突っかかった。
「俺は伯爵のためにやっているんだぞ。床入りの日には、伯爵はあの〝馬〟を乗りこなさないとならないんだからな。本番で嫌がったり、ひぃひぃ女みたいに泣くようなみっともないことさせられないだろう? 第一、そんなことになったら、俺たちの調教の手腕が悪いということになるんだぞ。おまえ、それでいいのかよ?」
 目だけでなく耳も閉じれるものならアベルは閉じてしまいたかった。アーミナの恐ろしい言葉が鼓膜に残ってがんがんと響く。
「そりゃ、困るけれど。……大丈夫だってば、伯爵」
 エリスの男とは思えないほどしなやかな両腕が、子犬でも抱くように優しくアベルの身体にからみついてくる。アベルは一瞬逃げたくなったが、逃げる場所も気力もなく、ただ宦官の抱擁を受けた。
「そんな怯えた顔しないで。明日また丸一日かけて腰をほぐして、それからはまた三日かけて一日ずつ、あの連珠で伯爵のなかを丹念にほぐしてあげるから。三日かけて連珠でほぐしたあとは、張り型でまた三日かけて丹念にほぐすことになっているんだ。都合、九日もかければ、伯爵は〝後ろ庭〟で充分たのしめる身体になりますよ。僕が保証します。これは、後宮でも王侯貴族の相手をする選び抜かれた色子だけが受けれる調教なんですよ」
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