黄金郷の夢

文月 沙織

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毒菫 六

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「ああ、あれな。馬鹿な奴だよ。なにも死ななくても良かったろうに」
 口を動かしながらもアーミナの手は容赦ない。揉み、薄い肉をつまみ、撫でたかと思うと、ふざけたように叩く。
「ふっ……。良かったですね、伯爵は素質があって」
 尻を叩かれたアベルは身をすくませたが、その反応を面白がってまたアーミナは叩いた。
「ふふふふふふ。叩かれると、感じるでしょう、伯爵? ほら、ここがこんなに……」
 事実だった。アベルは耐えきれずに顔を布に埋めた。そのせいで臀部がいっそう上がり、獣じみた浅ましい恰好になってしまう。
「ふふ。伯爵ったら、そんなにお尻をあげて。そんなに俺に触って欲しいのですか? なぁ、カイ、そろそろ……入れてみないか?」
 アーミナの言葉にアベルの身体が引きつったのをカイは見逃さなかったようだ。
「まだ駄目だ。見ろ、アルベニス伯爵は怯えている。予定どおり三日間は徹底的に揉んで、身体をほぐしてやるんだ。連珠を入れるのは、それからだ」
 救いでもあり、恫喝でもあるカイの言葉に、アベルは顔を伏せたまま奥歯を噛みしめた。
「でも、ほら、もう、こうなっているよ」
 エリスがうっとりとしたように言うや、細い手をアベルの中心に伸ばす。
「よ、よせ!」
 さすがに身を起こして抗うアベルの背に、カイの冷たく観察する視線が突きささる。
「今はそっちに触るな。尻だけを責めるんだ。伯爵、手枷をつけたままではご不自由かもしれませんが、どうしても我慢できなければ、許します。ご自身でどうぞ」
 揶揄も皮肉もない、平然とした口調で告げられ、アベルはいたたまれなさに顔を俯けた。三人の目の前で自分で身体を静めるなどとてもできず、ひたすら身体を褥に伏せて、やり過ごすしかない。だが、尻が下がるとアーミナの叱責が飛んでくる。
「そんなに身体を落としたらやりにくいだろう。ほら、尻をあげて」
 ぱしん、と臀部に軽い打擲をうけ、アベルは布を噛みしめる。
 それでも相手の言いなりに恥ずかしい姿勢をとるのが悔しく動かないでいると、あらたな声が聞こえてくる。
「ほら、尻をあげろって」
 言うや、彼はアベルのふるえる腰を両手でつかむようにし、無理やり引きずり上げる。
「可哀想に。辛いんだね。手伝ってあげたいんだけれどね」
「余計なことをするな、エリス。我慢できなくなれば、伯爵がご自身でされる。おまえは自分の仕事をするがいい」
「はいはい。カイって、本当に仕事に関しては厳しいね。ごめんね、伯爵」 
 そう言ってエリスは己の仕事に専念した。
「ああ……! は……あ……」
 燃えはじめた火に風を向けられるばかりで、いっこうに水をまかれることもなく、肉体は昂ぶりつづけ、出口のない炎はアベルの身内を焦がしつづける。気が狂いそうだった。
(なんとかして……逃げねば……)
 そうでないと、自分は本当に自分でなくなってしまうかもしれない。アベルは下肢の昂りにせっつかれながら、絶望に気をうしなう一歩手前まできていた。 

 
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