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毒菫 四
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カイの言葉にアベルは頬が引きつるのを自覚した。小柄なカイが急に大きく見える。
「さぁ、その邪魔な掛け布をどけてください。そして、そこに四つん這いになってください」
(嫌だ!)
と、叫びたいが、それは出来なかった。
「ハルム、き、貴様はもう用が済んだろう」
それでも、せめてハルムを睨みつけながら、出て行くように示唆した。
「おやおや、儂がいてはお邪魔かな?」
ハルムが訊いたのはカイに対してだ。カイは生真面目な顔でこたえた。
「そうですね。今日は伯爵の身体をほぐすのが目的ですから。ハルム様がいらっしゃるとアルベニス伯爵は緊張してしまうかもしれません。今日のところはここでお引き取りを」
心底、残念そうにハルムが白いものが混じった眉をしかめた。
「三日後には、すっかり変わったお身体をお見せしますよ。そのときを楽しみにしていてください」
アーミナの言葉にせかされるようにして、ハルムは嫌々そうに室を出る。
たしかに菫たちの発言力というのはなかなか強いらしい。
見物人が減ったことで、わずかながらアベルは安堵したが、その後はまた辛かった。
「あっ!」
「さ、ぼやぼやしていないで、ほら!」
アーミナが乱暴に布を剥ぎ取る。
全裸の白い身体に、ただ首と両手に金の輪のみ、というアベルの身体が悔しげにふるえる。しかも首と手の枷は極細の鎖でつながっているので、動きづらい。
(自由な身体だったら、こんな子どもたちなど……)
燃えるような無念の想いをこらえ、アベルは少年宦官たちの言いなりになるしかない。
「ほら、早く四つん這いになれよ」
犬でも追い立てるように言うアーミナに憎悪の一瞥を投げ捨てながら、アベルは自棄になったように、言われたとおりに彼らに背を向け、膝を立てた。四つん這いの恥辱の姿勢だ。
(くそ、くそ、くそ!)
祖国では、その怜悧な知性と、類まれなる美貌、そして財政的には没落したとはいえ、二百年の歴史ある貴族の末裔ということで、誉めそやされ、もてはやされ、宮廷じゅうの貴婦人たちの熱い視線を受けてきたアベルの身体が、異国の宦官たちのまえに落花無残の悲惨なすがたで、来たるべき辱しめを屈辱にふるえながら待っているのだ。
「うわぁ……本当に染みひとつない身体なんだ」
感嘆の声をもらすエリスを、アーミナが馬鹿にしたように笑う。
「ふん、一度も鞭で打たれたことも、苦しい作業をしたこともない身体だものな。俺たちのような親に売られた貧民街あがりとは生まれも育ちも違うということさ。なぁ、そうだろう? お貴族様。へっ、見ろよ、女みたいに真っ白な尻だぜ」
「さぁ、その邪魔な掛け布をどけてください。そして、そこに四つん這いになってください」
(嫌だ!)
と、叫びたいが、それは出来なかった。
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それでも、せめてハルムを睨みつけながら、出て行くように示唆した。
「おやおや、儂がいてはお邪魔かな?」
ハルムが訊いたのはカイに対してだ。カイは生真面目な顔でこたえた。
「そうですね。今日は伯爵の身体をほぐすのが目的ですから。ハルム様がいらっしゃるとアルベニス伯爵は緊張してしまうかもしれません。今日のところはここでお引き取りを」
心底、残念そうにハルムが白いものが混じった眉をしかめた。
「三日後には、すっかり変わったお身体をお見せしますよ。そのときを楽しみにしていてください」
アーミナの言葉にせかされるようにして、ハルムは嫌々そうに室を出る。
たしかに菫たちの発言力というのはなかなか強いらしい。
見物人が減ったことで、わずかながらアベルは安堵したが、その後はまた辛かった。
「あっ!」
「さ、ぼやぼやしていないで、ほら!」
アーミナが乱暴に布を剥ぎ取る。
全裸の白い身体に、ただ首と両手に金の輪のみ、というアベルの身体が悔しげにふるえる。しかも首と手の枷は極細の鎖でつながっているので、動きづらい。
(自由な身体だったら、こんな子どもたちなど……)
燃えるような無念の想いをこらえ、アベルは少年宦官たちの言いなりになるしかない。
「ほら、早く四つん這いになれよ」
犬でも追い立てるように言うアーミナに憎悪の一瞥を投げ捨てながら、アベルは自棄になったように、言われたとおりに彼らに背を向け、膝を立てた。四つん這いの恥辱の姿勢だ。
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