黄金郷の夢

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
31 / 150

毒菫 四

しおりを挟む
 カイの言葉にアベルは頬が引きつるのを自覚した。小柄なカイが急に大きく見える。
「さぁ、その邪魔な掛け布をどけてください。そして、そこに四つん這いになってください」
(嫌だ!)
 と、叫びたいが、それは出来なかった。
「ハルム、き、貴様はもう用が済んだろう」
 それでも、せめてハルムを睨みつけながら、出て行くように示唆しさした。
「おやおや、儂がいてはお邪魔かな?」
 ハルムが訊いたのはカイに対してだ。カイは生真面目な顔でこたえた。
「そうですね。今日は伯爵の身体をほぐすのが目的ですから。ハルム様がいらっしゃるとアルベニス伯爵は緊張してしまうかもしれません。今日のところはここでお引き取りを」
 心底、残念そうにハルムが白いものが混じった眉をしかめた。
「三日後には、すっかり変わったお身体をお見せしますよ。そのときを楽しみにしていてください」
 アーミナの言葉にせかされるようにして、ハルムは嫌々そうに室を出る。
 たしかに菫たちの発言力というのはなかなか強いらしい。
 見物人が減ったことで、わずかながらアベルは安堵したが、その後はまた辛かった。
「あっ!」
「さ、ぼやぼやしていないで、ほら!」
 アーミナが乱暴に布を剥ぎ取る。
 全裸の白い身体に、ただ首と両手に金の輪のみ、というアベルの身体が悔しげにふるえる。しかも首と手の枷は極細の鎖でつながっているので、動きづらい。
(自由な身体だったら、こんな子どもたちなど……)
 燃えるような無念の想いをこらえ、アベルは少年宦官たちの言いなりになるしかない。
「ほら、早く四つん這いになれよ」
 犬でも追い立てるように言うアーミナに憎悪の一瞥を投げ捨てながら、アベルは自棄やけになったように、言われたとおりに彼らに背を向け、膝を立てた。四つん這いの恥辱の姿勢だ。
(くそ、くそ、くそ!)
 祖国では、その怜悧な知性と、たぐいまれなる美貌、そして財政的には没落したとはいえ、二百年の歴史ある貴族の末裔ということで、誉めそやされ、もてはやされ、宮廷じゅうの貴婦人たちの熱い視線を受けてきたアベルの身体が、異国の宦官たちのまえに落花無残の悲惨なすがたで、来たるべき辱しめを屈辱にふるえながら待っているのだ。 
「うわぁ……本当に染みひとつない身体なんだ」
 感嘆の声をもらすエリスを、アーミナが馬鹿にしたように笑う。
「ふん、一度も鞭で打たれたことも、苦しい作業をしたこともない身体だものな。俺たちのような親に売られた貧民街あがりとは生まれも育ちも違うということさ。なぁ、そうだろう? お貴族様。へっ、見ろよ、女みたいに真っ白な尻だぜ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

捜査員達は木馬の上で過敏な反応を見せる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...