黄金郷の夢

文月 沙織

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毒菫 二

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「……?」
 それでも、意味を完全に理解するのに数秒かかった。
「な……」
 やっと理解したアベルは耳朶まで燃えるように熱くなったのを自覚した。
「なっ、な、なにを言っている?」
 怒りと驚愕で胸がせり上がるのを抑えようとしたが、抑えられない。
「こんなことで驚くなよ。ほら、」
 そう言ってアーミナが二段目の箱をあけると、なかには同じような造りの紅玉ルビーの連珠。最初のトパーズより、やや大きめだ。またも、これみよがしにアーミナが手に取ってそれを宙に揺らす。
 さらに三段目の箱にはルビーよりまたすこし大きめの蒼玉サファイヤの連珠。
 値段をつければいったいどれほどの価値になるか。たしかにこれは一国の王が、寵愛する妻妾に贈るにふさわしい品物であり、これを受けとるのは、歴史に名を残すほどの傾城傾国けいせいけいこく佳人麗人かじんれいじんのみだろう。
 だが、アベルにとってそれは世にもおぞましい凶器だった。午後ののどかな空間のなかで、三色の貴石きせきの淫具は毒々しいほどに美しく妖しくきらめいて、痛いほどに目を刺す。
「このトパーズのは、俺が使うからね」
 アーミナの口調はますます粗野なものになる。生まれは下層階級のようだ。
「ルビーは私が使います」 カイが平然と言う。
「サファイヤは僕が。まかせておいてください。僕、うまいんですよ」
 エリスがはにかみながら言うのを聞き、アベルは失神しそうになった。 
「大丈夫ですよ。そんな怖い顔しないで。これを使うまでに三日かけて伯爵の身体をやわらかくするんです。四日目には喜んで受け入れられるようになりますって」
 エリスの場違いなほど呑気な口調に、アベルの苛立ちは堰を切る。
「ば、馬鹿なことを言うな! 死んでも嫌だ!」
 その怒声を聞きつけたのか、室の扉から人影があらわれた。
「まだこの奴隷はあれこれ言うておるのか?」
「これはハルム様」
 カイが形のうえでは上役であるハルムに礼をし、他の二人もならうが、アーミナの、老いはじめた宦官を見る目にはかすかに不遜なものがちらついている。
「おい! 貴様、私の枷を外せ! 今すぐ私をこの腐った宮殿から出せ!」
 ぎょろり、と濁った目がアベルを見る。今日も黒い衣を見にまとった背の低い宦官は、どこか冥界からさまよいでたきた死神を思わせる。
「調教を受けて陛下の妻になるのが、それほど嫌か?」
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