黄金郷の夢

文月 沙織

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菫責め 四

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 結果、下肢のたかぶりと、妖しい染みがいっそう人目に晒されてしまう。
「は、はなせ! はなせ!」 アベルの声はもはや涙声になっていた。
「ひっくりかえった蛙みたいだね」
 アーミナの揶揄を無視して、エリスは生真面目な顔つきで持ち上げている方のアベルの右脚を撫でた。
「すごい綺麗。白人て、皆こんなに肌が白くて綺麗なのかな……」
「こいつは特別なんだよ、きっと」
 真似るようにアーミナも左の太腿あたりを撫で、その動きがアベルの神経を刺激した。
「うっ! うううっ!」
 我知らず、獣のような呻き声をあげ身体を震わせるアベルを、客たちはいっそうおもしろがって笑った。なかには彼の股間を指差し、背をのけぞらせる者もいる。
 自害を禁じる神の教えを受けていなければ、アベルは舌を噛み切っていたろう。こらえきれなかった悔し涙が、とうとう頬を伝った。
「あーあ、泣いちゃった」
 アベルの涙に気づいたエリスが、胸を責めることを中断して、その濡れた頬に接吻する。
(ああ、こんな、こんな……!)
 こんなことが我が身に起こるなど想像もできなかった。
 アベルは、いや、いや、と無意識で首を振っていた。
「うわぁ、どうしよう? この人、可愛いよ」
 エリスと向かいあう形になっているアーミナが苦笑した。
「馬鹿だね、言われたことをしないと」
 そしてまた吸い音が激しく響き、アベルの苦悶がつづく。
「ううううう!」
 いっそ気を失えたらまだ楽だったろうが、失神寸前まで追い詰められながらも、アベルの五感はしっかりと今の状況を把握しており、それは屈辱の嵐となって彼を翻弄した。
「陛下、いかがいたしましょう? 辛そうです。気をやらせますか?」
 カイの問いに王は首をふる。
「いや。今宵は胸だけじゃ。胸以外はまだ触るな」
 否応なしに聞こえてきたディオ王の冷酷な言葉が、アベルを打ちすえる。
 アベルは恨みも忘れて、ほとんど背後の宦官にもたれかかるようになっていた。精神も身体もギリギリのところまで追い詰められていたのだ。
「はぁ……ああっ、ああっ……、も、もう」
 必死にこらえていたが、とうとう涙を浮かべて、何かを乞うように、アベルは王を見た。
 宙で、王の黒い目とアベルのみどりの目がかちあった。口からは決して吐くことのなかった弱音を、アベルは瞳で伝えていた。もう、本当にどうしょうもなかった。限界だったのだ。
(だ、駄目だ、もう、無理だ……。気が狂いそうだ……)
 それでも、自尊心は最後の砦となって、口を開かせてはくれない。万感の想いをこめて、憎い相手をただ見ることしかアベルにはできない。
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