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調教開始 五
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(こんな……、こんなことが……。夢だ。私は悪い夢を見ているのだ)
アベルはふたたび気が遠くなりそうになりながらも、かろうじて残っている意識の片隅でそんなことを考えていた。
貴族の子弟のなかには、早熟な者なら十五、六で娼館へ通う者もいるが、アベルはそういった悪所にはいっさい足を踏み入れることもなく清らかに神の教えを守って生きてきた。ときには貴族の令嬢や若い未亡人から恋文や詩をささげられることもあったが、それらには儀礼的に、「若輩の身でそういうことは考えておりません」と返してきた。
性的なことに関してはひどく晩熟で初心なのだ。父の放蕩ぶりを見ていたせいで、むしろそういったことに関しては禁忌の意識が強かった。父は母が生きている頃から平気で愛妾を自邸に住まわせるような男で、その冷酷さが母の死を早めたといってもいいだろう。貴族の男なら愛人の一人や二人はいてもおかしくないが、妻とおなじ館に住ませるのはやりすぎだ。アベルの母は信仰心篤い女性だったので、父の自堕落さが許せなかったのだ。その母はアベルが十五のとき病で逝き、数年後に父は落馬事故で負った傷がもとで亡くなった。莫大な借金をのこして。
父の死後、実家の窮乏が一番きびしかったころ、よければ援助したいと、さる貴族から匿名の申し出があったが、その裏の意味をさとったアベルは、使者を怒鳴りつけてたたき出したことがある。男娼の真似をして生きるぐらいなら、死んだ方がマシだと本気で思っていた。今でもそう思っている。
だが、そんな彼の胸を、熱っぽい掌がまさぐる。
「ああ……」
夢現のはざまから無理やり現実にひきもどされたアベルは、不自由な身体でどうにか逃げようと、痛むほどに身体をよじったがかなわない。
「よ、よせ! よさぬか、無礼な!」
「無礼?」
ディオ王が珍しい生き物を見るような目でアベルを見る。
「グラリオンの王たる余にむかって無礼とは。……本当にそなたは面白い。その生意気な性根をこれからしっかりと躾なおしてやらねばな。くっくっくっ。ほれ、ここはどうじゃ?」
「あっ! よ、よせ!」
右胸の突起を二本の指で摘まれ、アベルは叫んでしまう。それでも、なんとか抗議の声をあげた。
「わ、私は帝国の使者だぞ! 私が帰らねば、陛下が軍を差し向けることになるぞ!」
現在のところ、帝国の強大な軍事力のまえにはグラリオン兵もかなわない。だが、祖国はここ数年政治的な問題で隣国と揉めているので、なるべくなら背後のグラリオンと問題を起こしたくないのだ。そのために第三王女との結婚話を持ち込んだのだが……。アベルはのたうちながらも、必死に考えた。
アベルはふたたび気が遠くなりそうになりながらも、かろうじて残っている意識の片隅でそんなことを考えていた。
貴族の子弟のなかには、早熟な者なら十五、六で娼館へ通う者もいるが、アベルはそういった悪所にはいっさい足を踏み入れることもなく清らかに神の教えを守って生きてきた。ときには貴族の令嬢や若い未亡人から恋文や詩をささげられることもあったが、それらには儀礼的に、「若輩の身でそういうことは考えておりません」と返してきた。
性的なことに関してはひどく晩熟で初心なのだ。父の放蕩ぶりを見ていたせいで、むしろそういったことに関しては禁忌の意識が強かった。父は母が生きている頃から平気で愛妾を自邸に住まわせるような男で、その冷酷さが母の死を早めたといってもいいだろう。貴族の男なら愛人の一人や二人はいてもおかしくないが、妻とおなじ館に住ませるのはやりすぎだ。アベルの母は信仰心篤い女性だったので、父の自堕落さが許せなかったのだ。その母はアベルが十五のとき病で逝き、数年後に父は落馬事故で負った傷がもとで亡くなった。莫大な借金をのこして。
父の死後、実家の窮乏が一番きびしかったころ、よければ援助したいと、さる貴族から匿名の申し出があったが、その裏の意味をさとったアベルは、使者を怒鳴りつけてたたき出したことがある。男娼の真似をして生きるぐらいなら、死んだ方がマシだと本気で思っていた。今でもそう思っている。
だが、そんな彼の胸を、熱っぽい掌がまさぐる。
「ああ……」
夢現のはざまから無理やり現実にひきもどされたアベルは、不自由な身体でどうにか逃げようと、痛むほどに身体をよじったがかなわない。
「よ、よせ! よさぬか、無礼な!」
「無礼?」
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「グラリオンの王たる余にむかって無礼とは。……本当にそなたは面白い。その生意気な性根をこれからしっかりと躾なおしてやらねばな。くっくっくっ。ほれ、ここはどうじゃ?」
「あっ! よ、よせ!」
右胸の突起を二本の指で摘まれ、アベルは叫んでしまう。それでも、なんとか抗議の声をあげた。
「わ、私は帝国の使者だぞ! 私が帰らねば、陛下が軍を差し向けることになるぞ!」
現在のところ、帝国の強大な軍事力のまえにはグラリオン兵もかなわない。だが、祖国はここ数年政治的な問題で隣国と揉めているので、なるべくなら背後のグラリオンと問題を起こしたくないのだ。そのために第三王女との結婚話を持ち込んだのだが……。アベルはのたうちながらも、必死に考えた。
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