黄金郷の夢

文月 沙織

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凌辱の宴 五

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「本当にこれをまとうのか? しかも、これは女物ではないか」
 不快げに訴えても相変わらずハルムは取り合ってはくれない。
「お急ぎくだされ。陛下や皆様がお待ちですぞ」
「あ、おい」
 女たちの手によってアベルは嫌々ながらもその衣を纏わせられてしまった。
「おお、よくお似合いで。それ、そちらの姿見でご覧になるといい」
 アベルは羞恥と屈辱に頬を燃やした。
 下肢には布を巻いているのでまだ救いがあるが、他は裸も同然の姿だ。祖国ではどれほど低級な娼婦でもこんな装いはしない。
「お履き物を用意しろ」
 ハルムの声に下女の一人が、上等そうな皮沓サンダルを用意した。次にべつの女が持ってきた皿を見て、アベルは息を飲んだ。
「お、おい!」
 女は平然と笑って告げる。
「お化粧をどうぞ」
「す、するか!」
 アベルは怒りのあまり叫んでいた。
「伯爵、美しく装うのも新妻たるものの勤めですぞ」
「馬鹿なことを言うな!」
 当時は帝国でも化粧する男はいるが、アベルはそういった習俗を毛嫌いしていた。
「さ、早く」
 ハルムが下女に目配せをすると、下女はうやうやしく化粧用の筆を手に、アベルの眉をなぞる。
 アベルは嫌々ながらもこれ以上抗うことできず、されるにまかせた。唇にも色をつけられ、頬にも何か塗られた。おぞましさに背が痒くなる。
(とにかく、今は従順をよそおって、隙を見て逃げ出さねば)
「おお、これはお美しい花嫁だ!」
 ハルムが感嘆の声をあげる。女たちも嬉し気に手をたたく。
 ふたたび姿見を見るように言われ、恐る恐るのぞいた銀面には、世にも不思議な生き物が映っていた。
 長い金髪を白布の上に垂らし、不満げな碧の瞳をたぎらせ、白雪の頬を怒りに赤く染めてそこに立っているのは、醜悪ぎりぎりのところで美を保っている男だった。
 透けて見える衣の下ではたしかに鍛えあげた青年の身体が息づいている。立ち方も男のものである。石床を踏む脚も筋肉を備えている。その男の身体が女のように薄布をまとい、顔には化粧をほどこしている様は、奇妙である。どこか不気味でもある。だが、不思議と下品にはならず、ある種の悲しい美しさをたたえているのだ。太陽のもとで咲き誇っていた白薔薇を無理やり引き抜き、光の差さぬ暗室の銀瓶ぎんべいに生けたようなものだろうか。
(くそ! 仮にも伯爵の私にこんな道化の役目をさせおって!)
 アベルはふつふつと湧いてくる怒りに胸が焼けそうになったが、今は我慢するしかない。
(とにかく、逃げなければ)
 広間へ戻るときだ。そのときにどうにかして自室へ逃げ、ドミンゴとともに城を逃げ出すのだ。
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