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凌辱の宴 三
しおりを挟む「ご、御冗談を……」
かろうじて、もつれるように一言吐くと、相手はまた眉を丸めた。
「冗談なものか、今宵は余とそなたの代理結婚式を挙げるのじゃ。褥をともにして式は終わることになる」
「……で、ですが」
口をぱくぱくさせながらアベルは言葉をさがした。
「わ、私は男です。神の教えに背きます」
「安心しろ、ここはグラリオンじゃ。そなたの神もここで行われたことを咎めることはできぬはず」
そんなことがあるものか、とアベルは言いそうになったが、たしかにここは異教徒の国だ。ここで下手に宗教問答を起こしてしまうと大変なことになる。
「あ、あの……、あの、」
どうにかしてこの場を逃げなければ、と考えていると、ハルムが口をはさんできた。
「花嫁御寮は旅の垢を落としたいのかもしれませぬ。まずは湯浴みをされては?」
「おお、そうであったか、身体を清めてから余に抱かれたいのじゃな。それは気がつかなかった。すぐに湯浴みを済ませてくるがよい。あと、しばし待とう」
王から獰猛な獣のような目を向けられ、内心怖気をふるったが、アベルは無意識のうちに頷いていた。
(と、とにかく逃げなければ……)
男の自分が花嫁の代わりになって異国の王に抱かれるなど、とんでもない。
(しかも、こんな衆人環視のもとでなど、死んでも嫌だ)
「湯殿はこちらで」
広間を出るやすぐ逃げだすつもりだったが、前後を二人の宦官奴隷、つまり四人の宦官たちにはさまれる形になり、アベルは、はやる気持ちをおさえた。
来たとき同様ハルムに案内されて、また長い廊下をすすんで案内されたのは石室だった。湯気がもうもうとたちこめている。
「なぁ、室に忘れものがあるのだ。取りに行かせてくれないか?」
「忘れ物? では、召使を行かせましょう」
「あの、大事な物なのだ。私が行かなければ」
「後にしてくだされ。王がお待ちでございます。そなたら、御客人のお身体を洗え」
取りつく島もない様子で、ハルムは湯殿に控えていた下女たちに命令をくだした。四、五人の下半身に薄布をまいただけの女たちがわらわらと寄ってくる。アベルはまた頬が熱くなってきた。
「いや、いい、私は自分でする」
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