黄金郷の夢

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
3 / 150

策略 三

しおりを挟む
 純白のターバンから黒い髪が瀧のように流れている。肌は異教徒らしく飴色あめいろだ。ここからでも見える黒い瞳は、剣呑のなものをふくんでいて、どこかエゴイの目を思わせるが、彼の目よりもはるかに黒く、激しいものを秘めているように見える。
「女王は、余を娘の婿にと望むのか?」
 低い声だが、耳に心地良い。なかなか美声だ。
「はい。我が国のイサベル女王陛下は、ディオ陛下と親密になりたいと望んでおられます」
「そうか。……アベルとやら、もっと近う」
「は」
 緊張しながらも、さらに玉座に進むと、相手の顔がすぐそばまで近づく。
 大空を飛ぶ黒い鷹を思わせるような、大地を駆ける黒い獅子を思わせるような男……。そんな男の目に、自分はどう映っているのか。こんなときにアベルは妙なことを思っていた。が、次の瞬間、相手は思いもよらぬことをした。
「う!」
 いきなり、唇を奪われたのだ。背後には臣下たちがいるというのに。
「お、お戯れを!」
 あわてて顎をつかんだ手を振りはらった。うしろでドミンゴが目を丸くしているのがわかる。背中からハルムや臣下や女たちの息を飲む音が聞こえてきそうだ。
「ハハハハハハ!」
 ディオ王はのけぞって笑った。宝石を散りばめた純白の衣が揺れるほどに。
「面白い。よし、決めた。縁談を受けよう」
 アベルは目をぱちぱちとさせていた。こんなにあっさり受諾されるとは。
 驚きはしたものの、願ってもないことだ。
「あ、ありがたき申し出で。それでは、その旨をすぐ文書にしたため、」
「それよりも、今すぐ、余は代理結婚を望む」
 唐突なディオ王の言葉にアベルはまた目をまたたいた。
 代理結婚とは、当人が儀式に出れないときに、代わりの者が儀式を行うことになる。むろん、形式的なものだ。
「アベルよ、そなたに王女の代理として結婚式を挙げることを求める」
 また唐突だが、男が花嫁の代理をすることも珍しくはない。
「で、ではわたくしがマーリア王女の代理を勤めさせていただきます」
 代わりに誓約書に署名をするぐらい、とアベルは踏んでいた。
「では、早速、今宵結婚式を取り行う」
「はい」 と、アベルは答えたいた。
 このとき、彼はまだ知らなかった。ディオ王の言う代理結婚というものが、どういうものなのか。
 知っていれば、殺されても承知することはなかったろう。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

捜査員達は木馬の上で過敏な反応を見せる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...