煉獄の歌 

文月 沙織

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 耳を疑う生々しい音が響いて、男が己の前をはだけたのが知れる。
「うう……」
 逃れようとしても、両腕を男たちによって後ろで引かれ、背後の勇の身体が重くのしかかってきている。
 すでに兄の方は準備ができているらしく、熱いものが触れてきて敬を怯えさせる。
「はっ、ああ……!」
 抵抗しようにも、身体はますます熱っぽくなり、背後の兄と前方の男の欲望を、まるで待ち望むかのような行為を敬にいてくる。
(あ……、そんな、)
 薬が効果を発揮はっきしはじめたのだろう。憎悪も恐怖をも凌駕りょうがした激しい熱が敬を襲ってきた。 
 敬は、自分でも信じられないことに、脚を広げ、唇を開けていた。
「どこまでも淫らな身体だ」 
 瀬津が笑った。
 薬のせいだ、と叫びたかったが、かなわず、代わりに敬は口を喘ぐようにして大きく開ける。
 幾度目かの涙が頬をつたう。
 放った欲情のしたたりと同じだけ涙を流している気がする。
「ん……っ、んん!」
 強烈なおすの存在感が敬の口腔を犯す。
 同時に、背後の蕾にも熱いものをいっそう強く感じて、敬はのたうちそうになる。
 一瞬、背後からの圧力が弱まった。
 兄は敬が慣れるのを待ってくれているのだが、この場合、そんななけなしの情が、かえって敬を追い詰め、追い落とす。
 しばらく静止していた勇は、あらたに力を得たように敬の内側へと侵入してくる。
(こ、こんな……)
 こんなことが、我が身に起こっていることが敬は信じられない。
 男でありながら男のもてあそびものとなり果て、しかも異母兄に犯されているのだ。
 周囲の客たちのねばつく視線の針も、敬をさらに傷つけ苦しめる。
 敬は朦朧もうろうとしてきた。
 もう、いっそこのまま羞恥も屈辱もすべて忘れて、ただひたすら二人の男の持つ熱に揉まれてしまいたい――そんな、投げやりな希望すら湧いてくる。
 だが、甘い背徳的な夢に溺れそうになった瞬間、無情にも前方の男が乱暴に敬の髪を引っぱり、残酷きわまりない現実世界に敬を連れ戻す。夢に逃げることは許さない、というように。
 より深く押し込まれた肉のやいばが、喉奥までえぐる。敬は吐き気にさいなまされた。
「ん! はっ……!」
 窒息するか、と思った瞬間、髪をつかんでいた瀬津の手から力が抜け、同時に熱いものが口腔で爆発した。
「うっ、……うげぇっ!」
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