煉獄の歌 

文月 沙織

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 生きているかぎり、この若い肉体は男たちの手によって悶えさせられ、醜態を晒されることになるのだ。
「いっそ、死んじまったら、さっぱりするかな……」
 そんなことを言ってしまったのは、ちょうど雨音が響いてきたせいだろうか。また誰かがジャズのレコードをかけているせいだろうか。どうにも気が滅入ってくる。
 ふん、と小虎は呆れた顔を見せた。
「アホ。自殺なんぞしてもなんの解決にもならんで。どうせ死ぬんやったら、俺なら、奴らの拳銃盗んで、皆殺しや」
 美しい顔に似合わぬ物騒な発言に、敬は苦笑しながら訊いてみる。
「それでその後死ぬのか?」
「いいや、それでも自殺なんてごめんや。逃避行やな。逃げて逃げまくってやる。蜂の巣にされるまで最後の最後まで逃げたる」
「……ボニーとクライドだな」
 無軌道に生きぬいた果てに殺された外国の有名な男女の犯罪者の名前を挙げてみた。
 この頃はまだ日本ではそう知られていないその二人の犯罪者の名を敬が知っているのは、ヤクザの家に生まれ育ち、犯罪事件に詳しい話好きな若衆の一人が身近にいたせいだ。敬の育った環境では、有名な野球選手の話をするように、こういった犯罪事件や犯人たちの話が語られていた。そういった事情は小虎も同じようだ。
「それか、健一とみさをやな」
 十年ほどまえ、当時、保安庁の会計係の夫妻を襲って小切手などを強盗した犯人と、その愛人のことである。
犯人の大津健一は逃避行に元女優の愛人中田みさをを連れ、女装や学生服姿で逃げまわり、戦後最初の劇場型犯罪を演じた。彼の逮捕後二週間後には、事件のドキュメンタリー映画が封切りされている。他にも余罪のあった大津は無期懲役となり、現在服役中である。
(そうだ……。自殺なんか、絶対しない。あいつらの武器を盗んで、寝首をかくか……無理なら、逃げて、逃げて、この世の果てまで逃げて……)
 それで、どうする? 
 敬は唇を噛んだ。
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