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九
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「今さらじゃないか。どうせ俺たちはヤクザ者だろう? 世間様の決めた道に反して生きているんじゃないか。兄さんは道徳なんて気にするの?」
拗ねた子どもが場末の売春婦の真似をしているような口調で、敬は恨みと甘えと反発をこめた目で異母兄を見た。
兄の目は、どこまでも優しく、その優しさが敬には辛い。
「たとえヤクザ、極道者でも……、いや、極道者だからこそ、最後の道は守らなければならないんだ……」
そして今夜も兄は敬をその腕に抱き、胸に抱き寄せ、指で慈しんではくれても、最後の砦は超えようとはしない。
「ねぇ、兄さん……」
「駄目なものは、駄目だ」
智恵のきらめきを含んだ勇の目は、敬ではなく、天井をぼんやり見ている。
強さと賢さを備えたその男性美の結実のような浅黒く凛々しい顔に、敬の胸は恋しさに爆ぜる。
敬はやるせなさに首を振った。
たまらなくなって、勇のうえに馬乗りになり、あられもなく、まだ青い肉体を兄の身体にぶつける。が、勇は、けっしてその挑発には乗らない。
「困った奴だな」
掌で敬の太腿を軽くはたくだけだ。
「うう……」
涙目になってしまった敬は、我知らず、項や胸もとから匂うような色気をふりまいているが、それでもその清純さと淫蕩さがまじりあった凄絶な色気をもってしても、勇の意志を砕くことはできなかった。
「兄さん……」
すぐそこにあるのに、決して手に入らない幸せをもとめて、敬の声は涙声になっていた。
拗ねた子どもが場末の売春婦の真似をしているような口調で、敬は恨みと甘えと反発をこめた目で異母兄を見た。
兄の目は、どこまでも優しく、その優しさが敬には辛い。
「たとえヤクザ、極道者でも……、いや、極道者だからこそ、最後の道は守らなければならないんだ……」
そして今夜も兄は敬をその腕に抱き、胸に抱き寄せ、指で慈しんではくれても、最後の砦は超えようとはしない。
「ねぇ、兄さん……」
「駄目なものは、駄目だ」
智恵のきらめきを含んだ勇の目は、敬ではなく、天井をぼんやり見ている。
強さと賢さを備えたその男性美の結実のような浅黒く凛々しい顔に、敬の胸は恋しさに爆ぜる。
敬はやるせなさに首を振った。
たまらなくなって、勇のうえに馬乗りになり、あられもなく、まだ青い肉体を兄の身体にぶつける。が、勇は、けっしてその挑発には乗らない。
「困った奴だな」
掌で敬の太腿を軽くはたくだけだ。
「うう……」
涙目になってしまった敬は、我知らず、項や胸もとから匂うような色気をふりまいているが、それでもその清純さと淫蕩さがまじりあった凄絶な色気をもってしても、勇の意志を砕くことはできなかった。
「兄さん……」
すぐそこにあるのに、決して手に入らない幸せをもとめて、敬の声は涙声になっていた。
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