煉獄の歌 

文月 沙織

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 男同士がどういう形でつながるかは、すでに知識としては知っている。なんといっても周囲は皆ヤクザ者ばかり、下世話な話は嫌というほど耳に入ってくる。
「こ、ここ……!」
 敬は、おのれの蕾に、勇の手を誘う。
「まったく欲張りな奴だなぁ」
 苦笑まじりの呆れた声でつぶやきながらも、勇の手は敬の望みに応えてくれた。
「はぅ!」
 指で敏感な箇所をえぐられる。
 内壁をうごめく指。勇の指。
「あ、ああ!」
 二本に増えた指は、勇の怒張の代理だった。
 勇の欲望と情熱を代弁するかのように、あたたかい指は敬の内部でうごめき、敬を焦らし、よろこばせ、昇天させてくれる。
「は、ああ! ああ! ああ!」
 感極まり、敬は涙をながす。
 けれど……。
 そのあとは墜ちていくだけだ。
 これ以上は昇れない。これ以上は極めることはできない。
 これは敬にとっては終わることのない煉獄、灼熱地獄で身を焼かれるようなものだ。
 欲しい。もっと勇が欲しい。
 恋する者同士なら、当然身体をふかく繋げ、たがいに歓喜をわかちあうはずだ。だが、敬と勇とのあいだに最後のその行為はゆるされない。
 敬はとっくに覚悟はできているのに、勇はそれには応えてくれない。
「ねぇ、兄さん、お願い。お願いだから!」
 数秒、勇の凛々しい澄んだ双眼が敬をあわれむように見つめる。
「……駄目だ」
「どうしてさ? ここまでして、何故駄目なんだよ!」
 恨みがましく叫ぶ敬に、勇の目は尚いっそう優しく光る。
「おまえを畜生道ちくしょうどうに堕とすことはできない」
 畜生道――。そんな古い言葉も当時はまだ使われることもあった。
「そんな! そんなこと!」
 極道社会という世間の暗部で生きる男たちの集団のなかで育った敬だ。親に捨てられた、売られた、盗んだ、女を強姦した、殺されそうになった、殺した、などという獣の世界で生きてきた道から外れた人間たちの話は腐るほど耳にする。だいいち敬自身が不倫の関係で生まれた子どもなのだ。今さら、人の道を守ることにどんな意味があるのだろう。
 そもそも、ヤクザという人種は世間の道徳や正義に背を向けて生きるものではないか、という反発心まで湧く。
 どのみち、世間一般の人からはまともに見られない人種のはずだ、自分たちは。
 その何よりの証しとして、勇の背に彫られた獅子の入れ墨。
 敬はもどかしげに、その黄金の獅子に指を這わせる。
 勇は十八になったとき、背に大きな獅子の入れ墨をいれた。
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