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魔悦 一
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だが、その苦痛が、なぜか甘みを帯びて、敬をせっつく。
「ほら、休むな。続けろ」
瀬津に言われるまでもなく、もう敬も引き返すことはできない地点まで来ていた。
「はぁ……」
いったん、衰えた火は、いっそう昂ぶりだす。
「坊ちゃん……」
「ああ、見るな、嶋。見ないでくれ……」
こんな浅ましい惨めな姿を嶋に見られる屈辱に、敬は気が遠くなりかけていた。
「駄目だ。ちゃんと見てろ、お前の坊やの可愛い姿を」
どこまでも酷く瀬津が命じる。
嶋の目も赤くなっているが、けっして敬から離れることはない。
「あっ、あああっ……!」
敬は泣きじゃくっていた。
(だ、駄目だ! ああ、遂く!)
もう、何も考えられない。
視界が真紅に染まる。
「はぁ……! ああっ!」
白い首筋が男たちの目を刺したのか、熱をふくんだ視線の針に全身を突き返されて、敬はその痛みに泣いた。
舌を噛んだ方がましだったというような屈辱の嵐のなかで、敬はおのれを弾けさせてしまった。
「坊ちゃん、食事、置いときますね」
「……ん」
頭から布団をすっぽりとかぶったまま、敬は物憂げに嶋に返事をした。嶋は、何か言いたそうな顔をしたが、すぐ室を出てくれた。食欲はなく、敬は自堕落に布団にくるまったままだった。
あれから――、敬が木藤組若頭、瀬津に散々な目にあわされてから丸二日たっていた。
人と顔を合わすのが嫌で、兄には風邪をひいたと言って室にこもっていた。大学は冬期休暇に入っていたので、誰も文句は言わない。
(畜生、あの野郎……)
あのときの屈辱を思い出すと、敬は奥歯が痛むほどに歯を噛みしめずにはいられない。
あのあと……、生まれてはじめて受けた凄まじい恥辱に物も言えなくなった敬に、さらに瀬津は鞭打つような真似をしてくれた。
瀬津は、後始末を許さなかった。
汚れた下肢を拭うことすら許されず、そのまま衣服をまとうことを強制された。
悔しさに歯噛みしながらも敬は不快感を押し殺して、死ぬほど惨めな気持ちで服を着て帰路についたのだ。しかも、
「坊や、忘れ物だ」
そう言われて腕をつかまれた次の瞬間、唇を強引に奪われた。
(あっ……)
嶋が身じろいだ気配が今も生々しく記憶によみがえる。
それは敬にとって人生二度目の接吻だった。
「ほら、休むな。続けろ」
瀬津に言われるまでもなく、もう敬も引き返すことはできない地点まで来ていた。
「はぁ……」
いったん、衰えた火は、いっそう昂ぶりだす。
「坊ちゃん……」
「ああ、見るな、嶋。見ないでくれ……」
こんな浅ましい惨めな姿を嶋に見られる屈辱に、敬は気が遠くなりかけていた。
「駄目だ。ちゃんと見てろ、お前の坊やの可愛い姿を」
どこまでも酷く瀬津が命じる。
嶋の目も赤くなっているが、けっして敬から離れることはない。
「あっ、あああっ……!」
敬は泣きじゃくっていた。
(だ、駄目だ! ああ、遂く!)
もう、何も考えられない。
視界が真紅に染まる。
「はぁ……! ああっ!」
白い首筋が男たちの目を刺したのか、熱をふくんだ視線の針に全身を突き返されて、敬はその痛みに泣いた。
舌を噛んだ方がましだったというような屈辱の嵐のなかで、敬はおのれを弾けさせてしまった。
「坊ちゃん、食事、置いときますね」
「……ん」
頭から布団をすっぽりとかぶったまま、敬は物憂げに嶋に返事をした。嶋は、何か言いたそうな顔をしたが、すぐ室を出てくれた。食欲はなく、敬は自堕落に布団にくるまったままだった。
あれから――、敬が木藤組若頭、瀬津に散々な目にあわされてから丸二日たっていた。
人と顔を合わすのが嫌で、兄には風邪をひいたと言って室にこもっていた。大学は冬期休暇に入っていたので、誰も文句は言わない。
(畜生、あの野郎……)
あのときの屈辱を思い出すと、敬は奥歯が痛むほどに歯を噛みしめずにはいられない。
あのあと……、生まれてはじめて受けた凄まじい恥辱に物も言えなくなった敬に、さらに瀬津は鞭打つような真似をしてくれた。
瀬津は、後始末を許さなかった。
汚れた下肢を拭うことすら許されず、そのまま衣服をまとうことを強制された。
悔しさに歯噛みしながらも敬は不快感を押し殺して、死ぬほど惨めな気持ちで服を着て帰路についたのだ。しかも、
「坊や、忘れ物だ」
そう言われて腕をつかまれた次の瞬間、唇を強引に奪われた。
(あっ……)
嶋が身じろいだ気配が今も生々しく記憶によみがえる。
それは敬にとって人生二度目の接吻だった。
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