黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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最後の夢 十

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「それがねぇ」
 クリスティーナは難しい顔になる。
「なかなか、アベルのイメージぴったりの子が見つからないのよ。もう五回もオーディションをして、いろんなところに声もかけてはいるのだけれど。金髪碧眼で綺麗で若い男はいろいろ来るのだけれど……なんだか、やっぱり違うのよね。綺麗だけど知性が感じられなかったり、知的な雰囲気でも色気がなかったり、愛嬌はあっても威厳や品位が感じられなかったり。……なかなかいないわ」
 クリスティーナは憂うように金色の眉をしかめる。
 ルイスは話題を変えてみた。
「そういえば、今ドミンゴ=カマノの絵の展覧会をしているそうだ。年齢制限はあるけどね。場所はけっこう近くだよ」
 カマノの作品とされる絵は、現代でも百作近く残っている。ほとんどは『黄金郷の白昼夢』の挿絵であり、いずれも猥画と呼ばれるが、すぐれた技術と、迫力、歴史的価値は否めず、展覧会がときどき行われ、現代でも画集が出版される。
「参考になるかもしれないから、明日にでも行ってみようと思っているんだ」

 地下は、空気がひんやりとしている。赤絨毯が靴音を吸い込むのか、静かだった。
 客はまばらだが、少なくもない。
 絵が絵なので、客は女性より男性が多いが、カップルで観に着ている人もおおい。性に関してはおおらかな国情のせいだろう。

 ルイスがその人に気づいたのは、あらかた見終わって、帰ろうかと思ったときだった。
 薄暗くしてあるライトの下、まるで夕日を背に立っているかのようなふしぎな輝きと哀愁にみちて彼はたたずんでいた。
 気づくと、ルイスは彼のすぐ側まで来ていた。まるでなにかに引き寄せられるように。
「……あの、失礼ですが、君は学生さんかな?」
「え、ええ、そうです。美大ですが」
 驚いて振り向き、そう答えた相手の碧の瞳に、ルイスはひどく心ざわついてしまう。
 絵の研究と勉強のために来たのだろう。着ているものはいかにも学生らしく若々しくて簡素だが、品の良さがある。
 すらりとした身体つきだが、ひ弱には見えない。巻き毛の金髪が薄暗い室内でまぶしく光る。顔立ちも完璧なほどに整っており、今までルイスが見たなかでは一番美しい、と言える。
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