黄金郷の白昼夢

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
175 / 184

最後の夢 三

しおりを挟む
 キリリリーーー。
 軋んだ音が鳴ると同時に、アベルの両手が引き上げられる。美しい顔に、かすかに苦悶が走る。
 さすがに、こらえていた溜息のような声がかすかに漏れた。
「どうして……こんな……」
 己の不幸と不運を恨むような、ひそかな嘆きのことばは、どれだけの人の耳に入ったか。
 アベルはきつく目を閉じている。
 上衣はかろうじて肌にはりついているが、下肢は痛々しいほどに剝きだしのままだ。
 擦りあわされた太腿が、羞恥と狼狽をつたえてくる。乙女のように恥じらう姿は、妖しいほどになまめかしい。
 アベルは「どうして」と嘆じるが、この身体に、この顔、そしてその気性を持ち合わせてしまったら、もはやこういう運命以外ありえないのではないか、とエンリケは思ってしまった。
 衣を剥ぎ取られるために、浅ましい姿勢を強いられ、欲望を受け止めるように、恥辱と屈辱を受けて、悔し泣きするように、アベルという人は生まれてきたのではないか、と半ば本気でエンリケは思ってしまう。
 隠すもののない下肢が客たちの視線に嬲られ、アベルは今にも全身から火を吹きそうだ。苦しげに歪む眉、現実からのがれようと閉じられた目、唇はあらたに苦痛の声をあげるかと、いったん開いたが、ふたたび、花が閉じるように閉まる。
 羞恥に頬を染め、うつむく風情は、帝国中、いや世界中のどんな美姫よりも美しい。
 アベルは、たんに顔形が美しいだけではない。頭のてっぺんから足の爪先まで、人の気を引きつけてはなさない、ふしぎな香のような霞をまとっているのだ。
 吊り上げられて動けず、苦痛に喘ぐアベルの全身が、真珠色の光をはなって見える。
 背後に立ったロロは、まるで魔香にてられたように、ふらふらと足元がおぼつかなくなっている。
 それでも、まるでしがみつくようにアベルの身体を抱きしめる。
「うっ……、は、はなせ! げ、下種! 異教徒!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

少年達は淫らな機械の上で許しを請う

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

屈した少年は仲間の隣で絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...