黄金郷の白昼夢

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
172 / 184

仇花開花 十

しおりを挟む
「おうっ、おうっ、おおおお!」
 ロロのゆがめられた顔に、汗ではなく光るものがある。
 もはや味わうことはないと諦めていた感動と感触を、いま彼は経験しているのだ。
(愚劣、と吐き捨て笑うことはできない……かもしれないな) 
 みずからも昂ぶりはじめながら、エンリケは苛立ちを忘れて、ついそんなことを考えてしまう。
 エンリケは勿論経験したことはないが、男性としての象徴をなくすということは、想像を絶する恐怖と苦痛と恥辱なのだろう。男が男でなくなるなら、いったいなんのために生きるのだろう、と思わずにいられない。
 そして永遠になくしてしまったはずの象徴を、仮の形で手に入れ、けっして味わえないはずの快楽を、今、奇妙なかたちで追求しているロロを、笑うことはできない。
 そうこうしているうちにも、ロロの動きは弱まることなく、その動きにあわせるように、アベルを支えている二人の宦官はアベルの身体を揺らす。
 アベルは今や宦官三人に嬲られているようなものだ。
「あっ……」
 右側の宦官の手が離れた瞬間、アベルは必死に木馬の首にしがみついた。なだめるように、右側の宦官がアベルの肩を撫でる。
 ロロがいっそう激しく腰を突き出す。
「どぉぉぉぉぉぉ!」
「あっ、ああああっ!」
 ロロのあとにつづいてアベルの声が響く。
 客たちは固唾をのんだ。

 音色は止んでいた。
 二人は、一歩あけてそれぞれの階段を駆け上ったようだ。
「は……ああ……」
 アベルを抱きしめ、ロロが感嘆の声を吐く。
 おそらくロロは、通常の男が感じる快感の、十倍もの快楽を感じているのだ。感動も十倍だろう。
 そして、アベルの方は――。
 アベルの白い頬に、涙があふれた。
 落花無残の一言である。
 だが……、半ば伏せられた目も、濡れた頬も、常にもまして、妖しいほどに美しい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...