黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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仇花開花 六

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 宦官二人が動いた。
「い、いやだ! はなせ!」
 さんざんいたぶられ、もはや守るべき名誉も誇りもないと思われてはいても、やはり生まれもった気位と自尊心は、アベルにこの期におよんでも、やすやすと屈服することをゆるさないのだ。
 そして、そんな反骨と気概は、かえって凌辱者たちの欲をあおることになった。
「しかたないわね。これは今回はまだ使わないようにしましょうと公爵と決めていたのだけれど……、ねぇ、公爵、ご覧になったでしょう? こう聞き分けわるいと、やはり、あれを使わないわけにはいかないわね」
 エゴイ=バルトラ公爵にむかってアグスティナは微笑む。まさしく魔女の微笑である。この国には、いや、この世にはいったい幾人の魔女がいるのだろう、とエンリケは内心で皮肉に笑う。
 とはいうものの、エンリケもまたアグスティナのほのめかす〝あれ〟が気にならずにはいられない。
「そうだな。仕方あるまい。使った方がアベル、いやA伯爵も楽しめるだろう。むしろ、使うほうが親切というものだ」
「でしょうよ」
 満足そうにアグスティナは笑って、控えている女奴隷に目配せをした。女奴隷は、サライアである。彼女はアイーシャを休ませるために別室へと連れていき、戻ってきたところだったのだ。
 戻ってくるなり命令され、扉の外へと消えると、すこししてから盆をささげてまた戻ってきた。
 盆の上には美しい紅玻璃の小瓶がある。
 アベルは毒物を見るような目でその小瓶を凝視している。
 彼にとっては毒薬以外のなにものでもない。
「ほほほほほ。察しがいいわね。中身には心当たりでもあるのかしら」
 同じものではないが、グラリオンにいたときも幾度となく、いかがわしい薬を用いられ、不本意に身体を燃えあがらせられた。本当に、気がおかしくなるかと何度も思ったものだ。
 我をわすれて醜態をさらし、覚めたときは死にたいほどの絶望感にさいなまされる。常に苦しみのうたうつ、後宮という名の地獄での日々は、けっして忘れられない。
 それは、今もつづいているのだ。悪夢から覚めたとおもえば、また別の悪夢の世界にほうりこまれているようなものである。
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