黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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魔性 九

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 今更だが、宴では本名を口に出してはいけないという不文律の掟があるらしい。
 それでもさんざめく声が、宴の主役の名をひそやかに告げる。
「お待ちかねです、皆様。今宵は、皆様ご愛読の『A伯爵調教日誌』を実演してみせましょう。演じてくださるのは……ここではそのままA伯爵ということにしておきましょうか」
 そんな口上を述べているのは、おどろいたことに侯爵未亡人アグスティナである。
 いつの間にこんな役を演じることになったのか。エンリケはしばし、未亡人の大胆さと諧謔に呆気にとられた。
 観客が義理でない拍手と喝采をおくる。
 そんな彼らを見て、アベル……というのか、A伯爵は真っ青である。
 だが、睥睨するように客たちを睨みつけ、唇を噛みしめた。その様子の痛ましさと、うしなわぬ気品にエンリケは目が熱くなりそうだ。
「では、お馬にお乗りいただく前に、宦官たちに少し身体をほぐしてもらいましょうか」
 未亡人が右手を振るや、四人の宦官が一歩、室の中央に出る。
「お気づきのとおり、彼らは宦官であり、肉体をつうじて誰かと結ばれることはできません。その代わり、今宵ここではいろんな楽しみをあたえてやってください」
 室には幾つもの押し殺した笑い声がひびく。
「さぁ、それではまず、A伯爵のお身体を調べさせていただきましょう」
 未亡人が言うや、アベルが火を吹くような目で彼女を睨みつけた。
 だが、そんなもので怯む女ではない。
 目配せを受けた宦官たちは、アベルの身体を両手でおさえこんだ。
「さぁ、では、伯爵、お覚悟はよろしいですか?」
「や、やめろ!」
 アベルは怒りのあまり全身を震わせている。
 碧の瞳には、軽蔑と憎悪がつまっている。
「さぁ、何をしているの、おまえたち? 伯爵はお待ちかねよ」
 言われて、じりじりと宦官兵たちが間をつめていく。
「く、くるな! お、おぞましい! い、いやだ!」
 四人の宦官たちは戸惑うことなく、目的の獲物を抑え込みにかかる。 
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