黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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魔性 七

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 自分もけっして善人とはいえないことは棚にあげて、エンリケはエゴイ=バルトラ公爵をにくんだ。
「ああっ、ジャムズ、もっと……もっと、激しく突いてぇ」
 のけぞって、女は恥もなく訴える。求められた背後の宦官は、いっそう動きを速めた。
 そんな二人の痴戯を、他の客たちの興奮ぶりを横目に、冷めた目でエンリケは見ていた。
 この女はやはり下層の出なのだろう、と内心エンリケはアイーシャを侮蔑する。
 アベルとちがって品位のかけらもない女だが、その全身は汗でしっとりと濡れ、うすく飴色にかがやき、流れるような黒髪は艶をふくんで蠱惑的に光る。
 アベルにはない天衣無縫の気性がかもしだすある種の魅力と野性美のようなものが、たしかに彼女にはあることは認めざるをえない。
 男たちの目を集めながら、彼女はまったく気にしていないようだ。ただ無心に快楽だけを求めている。
 目は痴呆のようにとろんと溶け、半開きの口からは唾液がこぼれている。醜態としか言えないが、やはりそこに人の気を引く迫力のようなものがある。
 一国の王の寵愛を受けた女の肉体に、わずかにまとわりついていた薄紫の光の残滓なのか、異国の後宮という幻想的な夢の名残なのか、絵物語の世界から転落してきた身がただよわせる哀愁なのか、アイーシャという女には、人の心を惑乱させるなにかがある。
 しかし、もっとも彼女を強烈に印象づけているのは、どんな状況でもくじけぬ天性の気性の激しさ、苛烈さかもしれない。
 この女は、残酷であればあるほど、下劣であればあるほど、人の心を乱し、目を離させないのだ。女優にでもなって悪役を演じさせれば、地でやりこなして、さぞ名優になれたろう。
「はぁっ、ああっ、あん……!」
 木馬の上であられもなく足を開き、女は快をきわめようとしていた。
 表情に愉悦と満足感があふれはじめる。
 女とは逆に、背後の宦官は、眉をしかめ、苦役を終わらせるのに必死だ。
 この卑猥な見世物が終われば、次は客たちが待っている新たな出し物のはじまりだ。
 エンリケは口のなかに苦いものがあふれていくのを感じた。
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