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魔性 五
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エンリケはやや圧倒された。
侯爵未亡人は化粧直しで席をはずしており、戻ってくるかどうかもわからない。未亡人の気まぐれには慣れているので、気にもならない。
エンリケは舞台を思わせる中央で、木馬の上で暴れる女と元男を見て、息を吐いた。
エンリケも裏の世界の、こういった妖しい宴や見世物を楽しんだことは幾度かあるし、乱交も経験したことがある。
だが、目の前でおこなわれている行為は、あまりにもきわどく、淫らで、なにより――今更だと自分でも思うが――下品なのだ。
人前で、閹人に作り物の性器を使わせ、木馬のうえで交わるなど、下劣をとおりこして、冒涜的ですらある。
アイーシャがのけぞった。客たちが笑う。アイーシャのうしろで奮闘している宦官が、獣じみた声をはなつ。
(汚らわしい……)
そんなことを考えている自分にエンリケ自身驚いた。
背徳的な催しでは、複数の男女の交わり、同性同士の愛戯、近親相姦や、ひどい場合は獣たわけですら見たことがあるというのに。なぜ、今更こうも嫌悪を感じるのか。
(いったいどうしたというのだ、私は……、俺は……!)
なぜこうも心がざわつくのか。
馬上で悶えぬいたアイーシャは、感極まった声を出した。演技ではなく、本当に感じているのだ。客たちは奇妙な喝采をおくる。その様子を見ていると、あらためて苛立ちと嫌悪がエンリケの胸にわいてくる。
答えは、やがて出た。
「このあとは……伯爵を見れるのかな?」
近くの男性客の呟きが耳を打つ。
このあと、アベルも同じようなことをされるのか。
それを望んで客たちは来ているのだ。
エンリケは胸が焼けそうになった。
「早く見たいわね」
悪びれもせず、恥じもせず、男の連れらしき女性が言う。彼女も身のこなしから貴族であることは間違いないとエンリケは踏んだ。
「ああ……あの美青年が、あんなことをするのかと思うと、今からたまらんなぁ……」
侯爵未亡人は化粧直しで席をはずしており、戻ってくるかどうかもわからない。未亡人の気まぐれには慣れているので、気にもならない。
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だが、目の前でおこなわれている行為は、あまりにもきわどく、淫らで、なにより――今更だと自分でも思うが――下品なのだ。
人前で、閹人に作り物の性器を使わせ、木馬のうえで交わるなど、下劣をとおりこして、冒涜的ですらある。
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(汚らわしい……)
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なぜこうも心がざわつくのか。
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