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魔女二人 十
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無理に起こされたアベルの横顔には、疲労と絶望がにじみでていた。
「さぁ、アベル、客がお待ちかねだ。おまえを見たくて皆来てくれたのだぞ」
「……う、恨む、おまえを、恨む! 心の底から、憎む!」
傷ついた碧の瞳と、ふるえる声に、裂帛の気迫がこもっている。
「ああ、いくらでも恨むがいい、憎むがいい。それこそ俺の望むところだ」
言うや、公爵は、ふらつきながらも精一杯あらがうアベルを抱き込み、その薔薇色の唇をうばう。
「んん……うう……」
かなり長い接吻だった。
室にいる誰もが呼吸することすら忘れて、二人の愛戯、というより修羅場に魅入られていた。
やがて、互いの唇がはなれ、公爵の声がひびく。
「さぁ、行くぞ。今宵は、おまえの初舞台だ。客たちを喜ばせてやるといい」
「……ああ、いっそ、私を殺せばいい……。そ、それほど私が憎いなら、ひと思いに殺してくれ……」
「馬鹿なことを言うな。何度も言っているだろう。そんな勿体無いことができるか。さぁ、おまえはおまえに与えられた役をこなすのだ」
「わ、私に与えらえた役だと?」
アベルの声が震える。
「そうだ。おまえの役は悪漢どもに凌辱される姫君だ。男たちは誰しも、いや、ときに女でも、そういう物語を見たがるのだ。おまえは、今夜その物語を見せるのだ。さぁ、行くぞ、お姫様」
「あ、い、いやだ! はなせ!」
公爵が聞くわけもなく、ずるずると強引にアベルを引きずっていく。
そのあとに二人の宦官がつづく。アイーシャとサライアという女もしたがう。ぞろぞろと他の女や宦官、召使たちも。
狂った宴の始まりだった。
「さぁ、アベル、客がお待ちかねだ。おまえを見たくて皆来てくれたのだぞ」
「……う、恨む、おまえを、恨む! 心の底から、憎む!」
傷ついた碧の瞳と、ふるえる声に、裂帛の気迫がこもっている。
「ああ、いくらでも恨むがいい、憎むがいい。それこそ俺の望むところだ」
言うや、公爵は、ふらつきながらも精一杯あらがうアベルを抱き込み、その薔薇色の唇をうばう。
「んん……うう……」
かなり長い接吻だった。
室にいる誰もが呼吸することすら忘れて、二人の愛戯、というより修羅場に魅入られていた。
やがて、互いの唇がはなれ、公爵の声がひびく。
「さぁ、行くぞ。今宵は、おまえの初舞台だ。客たちを喜ばせてやるといい」
「……ああ、いっそ、私を殺せばいい……。そ、それほど私が憎いなら、ひと思いに殺してくれ……」
「馬鹿なことを言うな。何度も言っているだろう。そんな勿体無いことができるか。さぁ、おまえはおまえに与えられた役をこなすのだ」
「わ、私に与えらえた役だと?」
アベルの声が震える。
「そうだ。おまえの役は悪漢どもに凌辱される姫君だ。男たちは誰しも、いや、ときに女でも、そういう物語を見たがるのだ。おまえは、今夜その物語を見せるのだ。さぁ、行くぞ、お姫様」
「あ、い、いやだ! はなせ!」
公爵が聞くわけもなく、ずるずると強引にアベルを引きずっていく。
そのあとに二人の宦官がつづく。アイーシャとサライアという女もしたがう。ぞろぞろと他の女や宦官、召使たちも。
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