黄金郷の白昼夢

文月 沙織

文字の大きさ
上 下
149 / 184

魔女二人 八

しおりを挟む
 背筋が凍り付くような残酷なことを言われ、アベルはとうとう嗚咽した。
 その後ろすがたどう思ったのか、
「ああ……、なんて可愛いの。たまらない……」
 感極まったように呟き、アイーシャは身をかがめてアベルの背に頬を寄せた。
 上半身は薄絹をまとったままなのアベルの背に、布ごしに接吻する。
「好き、好きなのよぉ」
 物狂おしげに、うめくように女は言う。
 いったい、この女にとって、人を好きになるとは、どういうことなのだろう。
 相手を苦しませ、貶め、痛めつけることが、この女の恋情の証しなのだろうか。稀にそういう人種も、この神に愛された国にいることを、バルバラは知っていた。
「は、はなせ……!」
 男女逆転したかのような図である。
 まさにアベルは今、アイーシャという名の悪党に凌辱される寸前の姫君である。
「よ、よせ……!」
 背後から、あらゆて手管を尽くしてアイーシャはアベルを追い詰める。
「ううっ、うううっ、うう……」
 殺されかけた小動物のような悲痛で儚い声をあげ、アベルはふるえつづけた。

「はぁ……」
 アベルの悲し気な吐息が室にこぼれる。
 周囲の誰かも息を吐く。さざ波のように吐息の波が室を満たした。
 その波が引くのを見計らったかのように、アイーシャは勝ち誇った顔で顔をあげた。
 堰を破られたアベルは、惨めな敗北のすがたをさらしている。
「ねぇ、どう? 淫乱女の手管も、そう捨てたものではないでしょう?」
 ぐったりと床に倒れこんだアベルからは、、今は両脇をかためていた宦官たちの手も離れている。
 閉じた瞼から頬へと、玻璃の涙がぽつり、ぽつりと滴っている。
「感想はないのかしら? 凄かった、とか、こんな気持ち良くなれたのは初めてだとか。ねぇ……」
 くすくすと笑うアイーシャの様子は、やはり常軌を超えている。
「ああ、陛下と、いえ、前王としたときよりも、ずっといいわぁ」
「廃王はうまかったのか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

上司と俺のSM関係

雫@3日更新予定あり
BL
タイトルの通りです。

処理中です...